倒れたのは
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「極楽、極楽~」
盗んだチャリンコで宿舎を脱出したツカサは、繁華街を身軽に歩いていた。
宿舎から30分ほど、自転車をかっとばせば、彼の顔の効くエリアだ。
こんな距離で、おとなしくしてろと言われる方が拷問だった。
「おっ、ツカサじゃん」
ちゃっかり高校に受かった、バカ友に呼び止められる。
深夜徘徊は、変わっていないようだ。
「うっす…ひさしぶり」
トレードマークの金髪で目立つおかげで、見つけてもらいやすい。
「お前、働いてんだって? ツラ、だいぶおっさんになってきてんぞ」
微妙にうれしくないことを言う。
この顔は、仕事のせいで変わったのではない。
あの過酷な三ヶ月で、勝手に変わってしまったのだ。
オレ、拉致られて船に乗せられ殺されそうになったから、そいつら殺したんたぜ。
武勇伝として自慢げに語ろうと思った言葉は、ツカサの足を絡め取った。
自慢でもなんでもないことに、気付いてしまったのだ。
もし信じてくれても、人を殺したなんて事実で、ひかれるのは間違いない。
たとえ、正当防衛だとしても。
「なんだあ? 社会出て、無口になっちまったのか?」
へらへら笑う同じ年のヤツが、えらく遠く感じた。
「そんなんじゃ…」
めんどくさくなってきて、ツカサはさっさと話を終わろうとした。
その時。
うげぇっ!
声を出さなくて、本当によかった。
おかげでツカサは見つからず、隠れることが出来たのだ。
「お、おい」
呼び掛けるヤツに、しーっと合図を送る。
名前呼んだら、ぶっとばしてやる、と思いながら。
繁華街を歩いていたのは――ワンだった。
なんであいつが、こんなとこにー!
ツカサの苦手な男だ。
アーシャにちょっかいを出そうとして、何回銃を突き付けられたことか。
と、いうことはアーシャの迎えか。
納得したツカサは、こそこそと彼から距離を取ろうとした。
パァンッ!
刹那。
破裂音がする。
ああ、知ってる知ってる。
これ銃声…って、ええっ!?
倒れたのは――ワンだった。