脱獄
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「あれ…」
吉岡の部屋から、大樹が戻ってくると、田島が変な声をあげた。
昼は調書取りがあったので、アーシャの件をいま彼に説明し終えてきたのだ。
肝心なところをぼかしてしゃべるのは、かなり骨が折れた。
多分、吉岡は何か隠していることは感づいているだろうが、深くつっこんで聞かずにいてくれたのだ。
やっと肩の荷が下り、ついでに貴恵に様子を聞こうと、吉岡に携帯を借りてきていた。
しかし、そんな忙しかった大樹に、田島は驚くのだ。
吉岡のところに行ってくると、ちゃんと伝えていたはずなのに。
ん?
そこで、彼も違和感を覚えた。
何か、たりな――
「ツカサも、一緒じゃなかったのか?」
田島に説明されるでもなく、あの金髪がいなかった。
「おまえが吉岡さんとこ行った、すぐ後を追っかけてったぞ」
時計を見ると、23時。
宿舎内をうろついているには、遅すぎる時間だ。
大樹は、反射的に窓を見ていた。
正確には、窓の外。
あっと、田島がそれを真似る。
「あの馬鹿…息抜きに出たのか」
奔放なツカサだ、宿舎に軟禁される生活に嫌気がさしたに違いない。
抜け出したのだ。
「金もねぇくせに」
田島は、めんどくさそうに立ち上がった。
彼らがなぜ、こんな軟禁生活をしているのか、ツカサにはその重要度が分かっていないようだ。
日本に帰った途端、平和ボケに戻ったのか。
「お金がないなら、地元でしょう。ツカサのテリトリーなら、なんなりと調達するツテがあるでしょうから」
大樹は、携帯を見る。
今日、貴恵には電話できそうになかった。