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筋肉痛

 ずいぶん遅くに、吉岡がやってきた。


 一緒に宿舎に泊まり込んでいる彼だったが、夜はいつも放っておいてくれるのに。


 田島はちょうど、腹筋を終えたところだった。


 まだ、腕の骨折の最終検査がおわっていないので、それ以外を鍛えるしかないのだ。


「大樹、電話だ…貴恵ちゃんから…何かやらかしたのか?」


 吉岡は、空いた片手で、頭に角を作って見せた。


「おっ!」


 それにツカサが反応して、盗み聞きしようと待ち構えている。


 ここに縛り付けられ、娯楽に飢えているのだ。


「貴恵ちゃんが?」


 心当たりがなさそうに、大樹は電話を受け取って耳に当てた。


「はい、もしもし」


 それから彼は、たっぷり三分黙りこんだ。


 延々、電話の向こうにがなりたてられているようだった。


 ようやく言った言葉は。


「電話、かわって」


 どうやら、向こうには他に人がいるらしい。


 その直後。


 田島は、耳を疑った。


「…――」


 大樹が、異国語をしゃべりはじめたからだ。


 しかも、その言葉は、彼らがちょっと前まで聞いていた国のもの。


 大樹は、ほぼマスターし、田島はカタコトでしゃべり、ツカサは基本しか理解していないそれ。


 大樹が珍しく早口なので、田島もうまく聞き取れなかった。


 しばらく言葉を交わした後、大樹は深々とため息をついて、日本語に戻った。


「貴恵ちゃん…明日の朝一でいくから、それまで彼女をお願い」


 ははーん。


 田島は、大体読めた。


「ちゃんと明日、説明するから」


 まだ、電話の向こうにわめかれているようだったが、ようやく大樹は電話を切った。


 二人の方を、振り返りながら、彼は言った。


「アーシャが、日本にきてる」


 ビンゴ!


 田島は、ニヤリとした。


「おおっ! アーシャちゃん! まぢ? オレを追ってきたのかな!」


 ツカサが、ひらりと舞い上がる。


 いや、おまえじゃないと思うぞ。


 口にしないのが、男の情けだ。


「それで…ちょっと気になることが」


 大樹が話し始めたことに――田島は、脇腹が筋肉痛になるくらい笑ったのだった。

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