どっちか
△
「はい、そうです」
淡々と答える大樹を、吉岡は見ていた。
彼は、担当は決まっていない。
管理職の立場なので、全体を見渡し指示を出すのだ。
三人の様子をローテーションでチェックし、ケアするつもりだった。
長い話になるだろうし、過酷な記憶を、何度も引きずりだされるのだ。
カウンセリングが、必要になるかもしれない。
一応、気遣うように指示はしているが、犯罪者相手の方が慣れている刑事あがりなども多いので、指示が徹底しないこともあるだろう。
大樹の調書部屋を出ながら、吉岡はため息をついた。
生きて帰る代償は、高かったのだと、思い知ったのだ。
最初、東南アジアの小国のアメリカ大使館から連絡が入った時は、ただ生きている事実を喜んだというのに。
「とんでもないチビだな」
ツカサの部屋から出てきたベテランが、吉岡に話かける。
「向こうで預かった、ぼろぼろのサバイバルナイフ…あの金髪のチビのだったぞ。いくら安物でも、三ヶ月であれだけ使い込んだってこった」
階級は下でも、吉岡よりは長い。だから、二人の時のしゃべりは、こんな感じだ。
「ああ、あの子のだったか」
何度も何度も、砥石で磨いだ後があった。
刄はどんどん薄くなり、もう折れる寸前と言っていいだろう。
刃物を磨いだことなんて、日本ではなかったろうに。
「しかし…ありゃ、かたぎには戻せんぞ」
調書の出だしだけでも、吉岡も薄々、それを考えていた。
アームレスラーは捕まえてはいるが、その残党は国内外問わずいるのだ。
そんな中に、彼らを戻せるはずがない。
船の仲間が帰ってこず、彼らが生きて戻ったと知れば、かならず報復に出る。
証人保護プログラムは、残念ながら日本では適用できない。
ならば、どうすれば彼らを守れるのか。
この長い調書の間に、考えなければならなかった。
「そこで、提案が二つある…この二つなら、通せる可能性がある」
耳、貸しな。
そして、ベテランはささやくのだ。
提案の二つ、とやらを。
「あー…」
吉岡は唸った。
どちらも、確かになんとか手を回せそうだが。
「どっちか、選択させりゃあいい」
それを、自分に切り出せというのか。
複雑な気分で、吉岡は遠くを見たのだった。