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どっちか

「はい、そうです」


 淡々と答える大樹を、吉岡は見ていた。


 彼は、担当は決まっていない。


 管理職の立場なので、全体を見渡し指示を出すのだ。


 三人の様子をローテーションでチェックし、ケアするつもりだった。


 長い話になるだろうし、過酷な記憶を、何度も引きずりだされるのだ。


 カウンセリングが、必要になるかもしれない。


 一応、気遣うように指示はしているが、犯罪者相手の方が慣れている刑事あがりなども多いので、指示が徹底しないこともあるだろう。


 大樹の調書部屋を出ながら、吉岡はため息をついた。


 生きて帰る代償は、高かったのだと、思い知ったのだ。


 最初、東南アジアの小国のアメリカ大使館から連絡が入った時は、ただ生きている事実を喜んだというのに。


「とんでもないチビだな」


 ツカサの部屋から出てきたベテランが、吉岡に話かける。


「向こうで預かった、ぼろぼろのサバイバルナイフ…あの金髪のチビのだったぞ。いくら安物でも、三ヶ月であれだけ使い込んだってこった」


 階級は下でも、吉岡よりは長い。だから、二人の時のしゃべりは、こんな感じだ。


「ああ、あの子のだったか」


 何度も何度も、砥石で磨いだ後があった。


 刄はどんどん薄くなり、もう折れる寸前と言っていいだろう。


 刃物を磨いだことなんて、日本ではなかったろうに。


「しかし…ありゃ、かたぎには戻せんぞ」


 調書の出だしだけでも、吉岡も薄々、それを考えていた。


 アームレスラーは捕まえてはいるが、その残党は国内外問わずいるのだ。


 そんな中に、彼らを戻せるはずがない。


 船の仲間が帰ってこず、彼らが生きて戻ったと知れば、かならず報復に出る。


 証人保護プログラムは、残念ながら日本では適用できない。


 ならば、どうすれば彼らを守れるのか。


 この長い調書の間に、考えなければならなかった。


「そこで、提案が二つある…この二つなら、通せる可能性がある」


 耳、貸しな。


 そして、ベテランはささやくのだ。


 提案の二つ、とやらを。


「あー…」


 吉岡は唸った。


 どちらも、確かになんとか手を回せそうだが。


「どっちか、選択させりゃあいい」


 それを、自分に切り出せというのか。


 複雑な気分で、吉岡は遠くを見たのだった。

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