守備範囲
○
「昨日のあの子が、例の15歳?」
仕事中、いきなり話を振られて、貴恵はワゴンに突っ込みそうになった。
「そ、そ、そうですけど、なにか?」
いまの彼女には、大樹の話は禁句だ。
穏やかに聞いていられない。
「私ほら、金髪くん担当したでしょ? あの子も15らしいんだけど…二人とも、えらく大人びてたよね」
中卒で就職すると、みんなああなるのかなあ。
先輩は、気楽にそんなことを言った。
金髪くんも、彼女にこれまでのことを話したわけではなさそうだ。
貴恵でさえ、聞かされなかった三ヶ月。
しかし、何もかも乗り越えた後――大樹は彼女を好きだと言った。
三ヶ月前の大樹にそう言われたなら、それは子供的な好きだと受け取っただろう。
しかし、昨日の大樹はもう、半分以上、違う人間になっていた。
だから、彼の言葉の意味を、貴恵ははき違えない。
「オレの担当の柔道にーさんは、静かだけど異様なオーラがあったぞ」
暇な時間とはいえ、チーフまで入ってきた。
「失礼なことを聞くが」
おしゃれ顎ヒゲを手で触れながら、チーフは声をひそめる。
「あの三人、ほんとにカタギの仕事か?」
肝が座りすぎだ。
彼は、首を傾げながら言うのだ。
「工場で、ICチップ作ってるって聞きました」
貴恵は、そう答えるしかできなかった。
たとえ、カタギな三ヶ月でなかったとしても、彼女はそれもひっくるめて、昨日の大樹を抱き締めたのだから。
彼に愛しさを感じ、同じような気持ちを返された。
具体的なことは、まだ何も見えないが、貴恵はもらった気持ちを大切に胸にしまったのだ。
「あ、今度、金髪くんの連絡先聞いといてねっ」
ってか、先輩! それが目的ですか! 年下守備範囲ですか!
記憶にひたりかけていた貴恵は、それをガラガラと崩しながら、猛烈にツッコンだのだった。