ピヨ
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貴恵に抱き締められた。
優しく温かい腕。
でも細く、か弱い。
この腕に、いままで守られていたのが、信じられないほど。
それなのに、いまなお彼を温めようとする。
同情でも哀れみでもないというのなら、この腕はなんなのだ。
この温かさは。
指先まで、染み渡る温度。
誰一人として、大樹のために、作れなかった温度でもあった。
それを、貴恵が作ったのだ。
大樹は、目を伏せた。
彼女の身体を、抱き締め返す。
腕にしっかりと、貴恵の温度を抱え込む。
言葉に――ならない。
いまの気持ちを、理屈立てたり、自分で納得したりすることができなかった。
ただ、抱き締めたかった。
彼女の温度に、報いたかった。
ああ。
何かが、こみあげてくる。
大樹は、それに気付いた。
自分のおなかの底から、熱い塊が喉へせり上がろうとしている。
あ。
あふれたがっている。
喉よりも、もっと上に。
そして、外へ。
大樹は、それを涙かと思った。
自分は、泣きたがっているのか、と。
でも、違った。
熱い塊は、喉から抜け出し――唇をめざしたのだ。
「貴恵ちゃん…」
熱が、彼女の名前を焼く。
その灰の中から。
生まれた。
「貴恵ちゃん…好きだよ」
ピヨ。
不死鳥の子とは思えない、頼りない雛が、その言葉になった。