こういう気持ち
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ザンゲシタクナイ。
大樹は、そう明確に貴恵に言ったのだ。
悪いことをしたが、後悔も反省もしたくない、と。
貴恵だって分かっている。
悪いのは、大樹をさらった悪党たち。
その悪党から逃げるために、大樹は彼らよりもっと悪党にならなければならなかったのか。
うぅ。
彼は――変わったんじゃない。
変わらなければならなかったのだ。
貴恵は、呆然とそれを理解した。
具体的な悪事は、何も考えないようにする。
それが、大樹の望むことなのだ。
ならば。
貴恵にできることは。
「大樹…こい」
彼女は、手招きで向かいの大樹を呼ぶ。
もっと近くにこい、と。
彼は、変わらないあの観察する目で、貴恵を少し見た後、膝で近づいてきた。
貴恵も膝で立つ。
その大きくなった身体を。
ぎゅうっと、抱き締めた。
「……!」
大樹は、驚いたように震えたが、そのままぎゅうっと。
「同情とか、哀れみじゃないぞ」
腕を回すのも大変になった身体。
それは、命を守るために、大きくなったのだ。
そして――守り切ったのだ。
「おまえを守ったこの身体が、うれしいんだ」
言って、貴恵は少し言葉がおかしいことに気付いた。
そうだ、と。
こういう気持ちを。
いとしい、というのだ。