表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/127

懺悔したくない

 三ヶ月間の出来事は、とても短い間では語り尽くせない。


 だから、それを要求されても、大樹は困るのだ。


 彼の感覚では、三年くらいに感じられたのだから。


 貴恵の入れてくれる久しぶりのお茶を飲むと、自分がゆっくりと地上に足をつけた気がした。


 ああ、そうだ。


 きっと人はこれを――家に帰ってきた気分、というのだろう。


「貴恵ちゃん」


 何から聞こうか迷っているような彼女に、自分から話しかけた。


「え、あ、なんだ?」


 驚いている。


 そうだろう。


 大樹は、きっと変わってしまったのだ。


 その自覚さえあった。


「三ヶ月のことは、多分、全部は話せない…」


 今も、一番恐ろしい出来事を、生々しく思い出せる。


 それが大樹を変え、しかし、生きて帰らせてくれたのだ。


 自分が、ここにいる代償。


 どんなに吐こうが、悪夢を見ようが、生還するという決意の踏み台だった。


 その話をなくして、行方不明の期間の話はできない。


 貴恵に、黙ることはできても、嘘をつくことはできなかった。


 だから――最初に頼むのだ。


 言いたくないことを、聞かないで欲しい、と。


 彼女に追求されたら、しゃべってしまうかもしれないのだ。


 それくらい貴恵の存在は、大きいのだから。


 だが、聞いてしまったら彼女の記憶に焼き付いて、一生消えないだろう。


 たとえ、大樹に対する態度が変わらなくても、記憶だけは消えない。


 あんな記憶を持つのは、当事者だけで十分だった。


「ず…」


 貴恵が、自分の顔を押さえる。


「ずりぃよ、大樹…それじゃ、あたしからは何も聞けないじゃない」


 うなる。


 泣きそうなのかもしれない。疎外感を感じているのかも。


「僕は…」


 しかし、彼女はこれで聞かないでいてくれる。


 性格から、よく理解しているつもりだった。


 だから。


 言えない理由を、伝えようと思う。


 それが、貴恵への礼儀だと思った。


「僕は、帰るためなら、何でもした。悪いことの方が、多かった……でも、生きたかった」


 貴恵を、まっすぐに見る。


「僕は…それを、貴恵ちゃんに懺悔したくない」


 それだけは、嫌だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ