懺悔したくない
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三ヶ月間の出来事は、とても短い間では語り尽くせない。
だから、それを要求されても、大樹は困るのだ。
彼の感覚では、三年くらいに感じられたのだから。
貴恵の入れてくれる久しぶりのお茶を飲むと、自分がゆっくりと地上に足をつけた気がした。
ああ、そうだ。
きっと人はこれを――家に帰ってきた気分、というのだろう。
「貴恵ちゃん」
何から聞こうか迷っているような彼女に、自分から話しかけた。
「え、あ、なんだ?」
驚いている。
そうだろう。
大樹は、きっと変わってしまったのだ。
その自覚さえあった。
「三ヶ月のことは、多分、全部は話せない…」
今も、一番恐ろしい出来事を、生々しく思い出せる。
それが大樹を変え、しかし、生きて帰らせてくれたのだ。
自分が、ここにいる代償。
どんなに吐こうが、悪夢を見ようが、生還するという決意の踏み台だった。
その話をなくして、行方不明の期間の話はできない。
貴恵に、黙ることはできても、嘘をつくことはできなかった。
だから――最初に頼むのだ。
言いたくないことを、聞かないで欲しい、と。
彼女に追求されたら、しゃべってしまうかもしれないのだ。
それくらい貴恵の存在は、大きいのだから。
だが、聞いてしまったら彼女の記憶に焼き付いて、一生消えないだろう。
たとえ、大樹に対する態度が変わらなくても、記憶だけは消えない。
あんな記憶を持つのは、当事者だけで十分だった。
「ず…」
貴恵が、自分の顔を押さえる。
「ずりぃよ、大樹…それじゃ、あたしからは何も聞けないじゃない」
うなる。
泣きそうなのかもしれない。疎外感を感じているのかも。
「僕は…」
しかし、彼女はこれで聞かないでいてくれる。
性格から、よく理解しているつもりだった。
だから。
言えない理由を、伝えようと思う。
それが、貴恵への礼儀だと思った。
「僕は、帰るためなら、何でもした。悪いことの方が、多かった……でも、生きたかった」
貴恵を、まっすぐに見る。
「僕は…それを、貴恵ちゃんに懺悔したくない」
それだけは、嫌だった。