まじです
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吉岡なら、きっと海にも意識を向けてくれる。
そう、大樹は確信していた。
だからこそ逆に、船は遠回りしてでも、安全なコースをゆくのだ。
日本の陸地が、ぎりぎりの時間まで近くにいてくれる。
それは、心強い材料でもあった。
「日本が近いのはありがたいが…」
大樹の意見を、黙って聞いていた寮長が、息をつくのも苦しげに、声を出す。
「この船のコントロールを奪うのが骨だな」
そうなのだ。
船に乗っている人数、武装など、なにも分かっていない。
あの右腕の男が乗っていたらアウトだ。
「夜を、寝静まっているところを狙うしかないと思います」
たとえ相手が銃を出してきても、暗がりでは命中率は落ちるだろうし、混乱に乗じて同士討ちしてくれるかもしれない。
ハンデのある戦いなのだ。
奇襲以外に勝てる見込みはなかった。
「やるなら…今夜だな」
まだ、回復していないというのに、田島は既に覚悟を決めている。
「はい、そう思います」
大樹も同意する。
今夜以外なかった。
「え、なんでだよ。そんな体で戦えるわけ?」
ツカサの目は、寮長に注がれている。
一番頼りになるのが誰か、分かっているのだ。
「殺す相手にメシなんか食わせてくれないぞ…水も、な」
寮長の言葉の最後が、一番重要だった。
人間から水を取り上げると、すぐに衰弱してしまうのだ。
今夜を逃すと、明日はもっと体力が奪われている。
まだ動ける、いまのうちが勝負なのだ。
「ってことは…」
ツカサが、絶望的な声をあげた。
「おまえだけが頼りだ」
こんな場面で、寮長はニヤリと口の端をあげた。
痛かろうに。
「ま、まじかよ…」
はぁぁぁ。
ツカサは、くらくらしたかのように、自分の頭を抱えたのだった。