情けの深さ
☆
ちびっこ達も侮れないな。
田島は、解放された右腕を持ち上げてみた。
大丈夫だ――右は。
大丈夫じゃないのは、左の方。
骨が逝ってるな。
あと、肋骨も片手の指くらいイカれてるだろう。
内臓へのダメージも深い。
それが、田島の自己判断。
しかし、生きているからこそ、怪我が強烈な痛みとして伝わってくるのだ。
せっかく、生きる可能性ができたのだから、痛みを満喫しようではないか。
「船で、どこかに運ばれているようです」
外の気配に注意いながら、大樹が現状を目の前に出してみせる。
「船員が外国人ですから、日本から離れるんでしょう」
一番深い手首の傷を、押さえて止血しながらも、大樹は言葉を進める。
「アジア系外国人ですから、針路をアジア方面と考えると…」
彼らの住んでいる地域は、本州の太平洋側。
そこからアジア方面へ行くには、関門海峡を抜けるか、九州をぐるっと迂回して東シナ海へ出る必要がある。
大樹は、そう予測をたてていた。
たいした奴だ。
ツカサは、何かとちゃちゃを入れるが、田島は黙って聞いていた。
「遠回りでも、九州迂回だと思います」
珍しく強い、大樹の言葉。
「なんで遠回りって決めつけんだよ」
よく分かっていないだろうに、ツカサが反論している。
「既に、僕らが行方不明になったことで、各地の監視は厳しくなってるはずだから…陸に近づくとは思えない」
言葉に、ツカサは頭の側で、くるくるぱーのゼスチャーを返した。
「あのな。俺たちは、陸地で事故にあったんだぞ…海に警備なんか向けるはずねーだろ」
そうだ。
田島も、何も知らなければツカサに同意しただろう。
何も知らないと言えば、本当なら大樹だって知らないのだ。
敵が何者かも。
「吉岡さんなら、きっとやってくれる」
ああ。
大樹の言葉に、田島は天に向かって吐息をついた。
相手が何者かなんて知らなくても――人は、信頼できるのだ。
「誰だよ、吉岡って」
ツカサにつっこまれているのを横目に。
田島は、大樹が持っている情の深さを垣間見たのだった。