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情けの深さ

 ちびっこ達も侮れないな。


 田島は、解放された右腕を持ち上げてみた。


 大丈夫だ――右は。


 大丈夫じゃないのは、左の方。


 骨が逝ってるな。


 あと、肋骨も片手の指くらいイカれてるだろう。


 内臓へのダメージも深い。


 それが、田島の自己判断。


 しかし、生きているからこそ、怪我が強烈な痛みとして伝わってくるのだ。


 せっかく、生きる可能性ができたのだから、痛みを満喫しようではないか。


「船で、どこかに運ばれているようです」


 外の気配に注意いながら、大樹が現状を目の前に出してみせる。


「船員が外国人ですから、日本から離れるんでしょう」


 一番深い手首の傷を、押さえて止血しながらも、大樹は言葉を進める。


「アジア系外国人ですから、針路をアジア方面と考えると…」


 彼らの住んでいる地域は、本州の太平洋側。


 そこからアジア方面へ行くには、関門海峡を抜けるか、九州をぐるっと迂回して東シナ海へ出る必要がある。


 大樹は、そう予測をたてていた。


 たいした奴だ。


 ツカサは、何かとちゃちゃを入れるが、田島は黙って聞いていた。


「遠回りでも、九州迂回だと思います」


 珍しく強い、大樹の言葉。


「なんで遠回りって決めつけんだよ」


 よく分かっていないだろうに、ツカサが反論している。


「既に、僕らが行方不明になったことで、各地の監視は厳しくなってるはずだから…陸に近づくとは思えない」


 言葉に、ツカサは頭の側で、くるくるぱーのゼスチャーを返した。


「あのな。俺たちは、陸地で事故にあったんだぞ…海に警備なんか向けるはずねーだろ」


 そうだ。


 田島も、何も知らなければツカサに同意しただろう。


 何も知らないと言えば、本当なら大樹だって知らないのだ。


 敵が何者かも。


「吉岡さんなら、きっとやってくれる」


 ああ。


 大樹の言葉に、田島は天に向かって吐息をついた。


 相手が何者かなんて知らなくても――人は、信頼できるのだ。


「誰だよ、吉岡って」


 ツカサにつっこまれているのを横目に。


 田島は、大樹が持っている情の深さを垣間見たのだった。

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