声
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サバイバルナイフ、木刀、モデルガン。
健康的な少年なら、一度は手にしたい三種の神器。
ツカサは、もちろん全部網羅していた。
その中で、一番かさばらず、いざというとき役立ちそうなサバイバルナイフだけは、就職先にまで持ち込んでいたのだ。
本当なら、やばいケンカの時くらいしか役立つことはなかっただろう。
まさか、こんなやばい場面が降り掛かかってくるとは。
ただのガキだと思われて、ボディチェックも甘かったのだろう。
いつまでも、こんなとこいられっか。
ナイフの刄で、自分の手首のロープを切ろうとした。
しかしナイフは小型で、自分のロープを自分で切るのは難しい。
「おい、眼鏡」
しょうがなく、動ける方を呼んだ。
「切ってやっから、手ぇ出せ」
本当は、先に自分のロープを切らせる気だったのだが、こんな難しい態勢で、手元を狂わされると、ツカサが痛い目をみそうだったのだ。
だから、ツカサが後向きで切る。
ちょっと失敗しても、痛いのは彼ではなく、大樹だ。
素直に差し出される腕を、後ろ手で触る。
ここ、だよな。
ツカサは、ナイフをあてた。
「…!」
びくっとした感触に、ツカサの方がびびる。
「動くな」
これだから、甘ちゃんは。
たいして痛い思いなど、してきたことがないに違いない。
ちょっと、手先を誤って怪我したくらい、なんだと言うのだ。
おれなんて、刺されたことだってあんだぜ。
大樹の反応も無視して、ナイフを動かす。
ぎこぎこ。
安物だったせいか、切れ味が悪い。
かなり力が必要だ。
ツカサには――中学時代の悪さのツケが、太ももにある。
たいした傷ではなかったが、刺されたという事実はショックだったし、転げ回るほど痛かった。
あれに比べりゃ、こんくらい。
ブツッ。
切れた。
ツカサは、ほーっと息を吐いた。
手首の拘束さえ解ければ、さすがの眼鏡も、ナイフの扱いを失敗しないだろう。
「ほれ」
ナイフを握らせる。
何時間ぶりかは分からないが――ようやく、ツカサの手は自由になった。
足は自分の手で解きながら、彼は寮長を解放しようとする大樹を見た。
あちゃ。
ツカサは、相当手元を狂わせていたらしい。
大樹の手首付近は傷だらけで、真っ赤だった。
先に切ってもらわねーで良かったぜ。
チキンなことを思いながらも、ふとツカサの意識を、さっきの記憶がよぎる。
声――出さなかったな、あいつ。