漢の神器
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1%。
生死のカギを握っていたのは――なんと、ツカサだった。
大樹は、自分とまったく違う種類の人間がいたことに、感謝しなければならなかったのだ。
船でパニックを起こし、大声を出したツカサは、船員を呼び寄せてしまった。
わからない国の言葉で怒鳴り散らされる。
静かにしろ、と言いたかったのだろう。
しかし、右腕の男ではなかったおかげか、暴行はなく、またドアを閉めて戻って行った。
拘束状況だけは確認していったので、何もできないと思われたのだろう。
無害のはずだった。
このまま、どこかで殺される――はずだった。
「あ」
やっと落ち着いたツカサが、そんな声を出さなければ。
「どうした?」
体の痛みに耐えながら体を起こそうとする寮長。
大樹は芋虫のように這い、彼の方へ近づく。
眼鏡がなくてわからなかったが、近づくと寮長はあざだらけだった。
顔など、ほぼ原型がない。
余りの痛ましさに、大樹が言葉を失っていると。
「おい、眼鏡」
いまの彼には眼鏡がないというのに、ツカサがそう呼んだ。
「後ろ向いて、オレの方に手を出せ」
船員に気付かれないほど、ツカサは音量を落としている。
後ろ手に縛られていたので、大樹は言われるがまま、彼に背中を向けて、手を見せた。
押しつけられたのは、ジーンズの腰のあたり。
なにをしようというのか。
「ベルトの間に、指つっこめ」
ベルト?
手探りで、ジーンズの生地からベルトに上げる。
「これ…」
指先が、何かに当たった。
人肌に温まった――金属。
「ベルトから下に、ちょいとはみ出してんのに、あいつら気付いてやがらねえ」
ツカサが、得意げな声になった気がした。
ベルトの内側に固定されているような金属を、大樹は強引に抜き取った。
指先でなでる。
ひらべったく、小さい。
「はっ、とんだヤンキーだ」
寮長が、あきれたように笑った。
痛みで、すぐ黙りこんだが。
「だれがヤンキーだ。漢のたしなみだろ」
同じように後ろを向いたツカサは、大樹の手からそれを奪う。
身をひねりながら、大樹はそれが何か見ようとした。
チャキッ。
金属がこすれる音。
「漢が買わずにいられないものナンバーワンだろ、これ」
かっこいいだろー。
後ろ手に閃く――サバイバルナイフ。
大樹はあっけにとられていた。
「次は、背中から木刀が出てきても、もう驚かんな」
「それは実家においてきた」
寮長とツカサは――いったい何の話をしているのだろうか。