支え
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寮長と吉岡は、少し打ち解けたようだ。
大樹は、別れぎわの二人の様子にほっとした。
寮長からは、あからさまな警戒が消えていたし、吉岡もやわらかい対応で。
二人の間に、どこで生まれたか分からない、かすかな信頼の匂いを嗅ぎ取れた。
「ああ、大樹」
寮に戻る途中の車の中。
ふと、運転席の寮長から声が飛ぶ。
「はい?」
「明日、携帯買え。それから、しばらく学校は送り迎えしてやる」
大樹の返事に、寮長は一気に言葉をかぶせた。
携帯、送り迎え。
二つのキーワードに、彼はすぐには反応できない。
どちらも、自分に無縁だったからだ。
「やっすいプリペイド携帯紹介してやる。緊急用に使え」
まるで、決定事項だと言わんばかりだ。
こんな強引な話、普段の寮長ならしないはずなのに。
「いいか?」
大樹が反応できないのを、迷いと取ったのだろうか。
寮長は、すかさず続ける。
「いきなり、人の頭をホームランしようとする奴の、恨みを買った事実をちゃんと理解しろ」
運転のために前を向いたまま、左の指で大樹を指すのだ。
「仕返しにこられた時に携帯があれば、最悪の事態から逃げられるかもしれん…だろ?」
「はい」
さすがに、そこまで筋道立てられると、抵抗する理由はない。
しかし。
「送り迎えまでは…」
やりすぎではないだろうか。
寮長にも、負担がかかってしまう。
「あのなぁ、賢いなら頭使え。俺だって顔を見られてるんだ。仕返しされるなら、俺も一緒」
それなら、せめて二人でタッグを組もう――そう、彼は言っているのだ。
もともとは、大樹が巻き込んだのだから、罵られてもおかしくないのに、うまく共同戦線と言う話に持っていこうとしている。
大きな人だ。
巻き込んだ件には、直後にお詫びをしたが、もう彼は詫びの言葉なんか聞きたくないと言ったので。
「ありがとう…ございます」
貴恵と吉岡に教わった言葉は――大樹にとって、強い心の支えになっていた。