彼らは…
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「田島くん」
大樹が、トイレに立ったのを見て、吉岡は切り出した。
今が、ちょうどいいタイミングに思えたのだ。
寮長になるだけあって、面倒見がよさそうで、男気もある。
そんな彼だからこそ、巻き込まれついでに頼みたいことがあるのだ。
「今日の件は、警察にも伝えるし、パトロールも強化してもらう…ただ」
そこで、吉岡は一度言葉を切った。
田島は、黙って聞いている。
「ただ、しばらくは大樹くんの周囲を注意してもらえないだろうか。勿論、君自身も注意してほしい」
大樹自身に注意しろと言っても、おそらく不可能だろう。
どんなに注意しても、身を守れるはずがない。
それほどの相手なのだ。
「気を付けるのは構わんのですがね…あの化け物が、どっちがわの人間かだけ、教えてもらえますか?」
身の守り方にも、レベルがあるんで。
直接やりあった田島だからこそ、相手が生半可ではないことを悟ったのだろう。
吉岡には守秘義務があったし、迂闊に説明すると余計な恐慌を招きかねない。
だが、本気で身を守ってもらわねば困るのだ。
二人分の命がかかっているのだから。
いっそ、吉岡が警察なら細かい防護策も取れただろう。
しかし、彼の立場では具体的なことはできない。
田島は、まっすぐに彼を見て、答えを待っている。
目の前の男に、二人分の命を託すには。
わずかな真実で、すべてを悟ってもらうのが、一番正しい気がした。
大樹にも言っていない真実。
「彼らは…」
目の端に、大樹が戻ってくるのが見える。
ますます声をひそめ、一言だけ口にした。
「…テロリストだ」