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ウェイトレスは空気を読まない

 どこか怪我をしているらしく、動きに不自然な鈍さがあったおかげで、田島は勝てた。


もし無傷だったなら、吹っ飛ばされていたのは、彼だったかもしれないのだ。


 しっかし。


 本気で、一撃目から腕を振り出してきていた。


 ヤンキーでもヤクザでもなさそうなのに、人を殺傷することにためらいがない。


 ありゃあ、やばいな。


 田島の見立てによると――右腕の男の方は、命の取り合いをしたことがある。


 一度や二度じゃなく。


「はい、車のナンバーは…」


 助手席の大樹は、田島に借りた電話で、再び連絡をしていた。


 大樹が気にしていた、ハムと呼ばれた男のことはよく分からないが、あんな危ないのとつるんでいるのだから、ロクなもんじゃないだろう。


 いろいろ報告し終わったあと、電話を切った大樹に。


「事情はしらんが、もうかかわるのはやめとけ…」


 今回、先に狙われたのが田島でよかった。


 大樹だったら、最初の一発目で、頭をホームランされていただろう。


「はい」


 まったく反抗する様子もなく、彼は素直に答えた。


 あんな大立ち回りを見せられては、素直にもなるだろう。


「あの」


 しかし、眼鏡の坊やの話は終わっていなかった。


 ん?


 顎先だけで反応する。


「後で、吉岡さんが事情を聞きにくるそうです」


 協力、お願いできますか?


 この眼鏡に危ない橋を渡らせる張本人がおでましになるようだ。


「そらぁ…」


 ハンドルにかけた左手の関節が、無意識にボキリと鳴る。


「そらぁ…楽しみだ」


 ※


 ああ、なるほど。


 田島は、大樹に紹介された中年男を見て納得した。

 見事な白髪だったのだ。


 これが、彼らのいう『白髪』か、と。


 場所は、会社近くのファミレス。


 安い飯をおごってくれるそうだ。


 一番奥の角の席に座り、男三人、どうでもいい夕食を注文する。


 ふーむ。


「吉岡さんって…刑事?」


 ウェイトレスが離れた途端、田島は思ったことを口にしてみた。


「違います」


 いきなりのジャブに――しかし、白髪の男は動じなかった。


 そして、否定。


「刑事でもないのに、なんであんな危ないの追い掛けてるんですか?」


 声に刺が乗るのは、命がかかったせい。


 自分だけのではなく、大樹と二人分。


「寮長…」


 いきなりの不穏な空気に、大樹が珍しく口をはさんできた。


 一体、どこでこんな得体のしれないおっさんと知り合ったんだか。


「すまなかったね、探していたのは、もう一人の男の方で、そんな危ない人間と一緒だったことは気付いてなかったんだよ」


 本当に心配した目で、二人を見る。


 無事でよかったと、その瞳が動く。


「すみません」


 田島の反応より先に、大樹の方が答えた。


 いつもより、更にテンションが低い気がする。

 あの事件が、よっぽどこたえたのだろう。


「いいんだ…ただ、今度からはすぐに逃げなさい。連絡はしなくても構わないから」


「はい」


 なんというか。


 田島は、馬鹿らしくなってきた。


 この眼鏡をたぶらかして、危ないことをさせようとしている相手なら、どうしてくれようかと思っていたのに。


 フタを開けてみたら、まるで保護者のようではないか。


 彼の仕事の手伝いをすることを、良しとしていない。


 大樹が、白髪な男に役立とうと頑張った――それが、結論か。


 やれやれ。


「聞きたいことが、いくつかありますが、いいですか?」


 とりあえず、穏やかな夕食になりそうな気配にため息をついて、田島は切り出した。


 しかし。


 ウェイトレスが夕食を運んできてしまったので、しばらくおあずけとなってしまった。

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