扉の前
☆
ふむ。
田島寮長は、大樹の変化を見抜いていた。
初めての門限破り以来、雰囲気が変わったのだ。
ただの竹ぼうきみたいな坊やに、ちょいと艶が出た、というか。
まあ、簡単に言えば、色気づいたわけだ。
そんな色気一年生は、いま田島の運転する車の助手席だった。
買い物に付き合わせているのだ。
彼だって、何か必要なものがあるだろう、と。
給料を使っているのだろうかと、心配になるほど、彼は何も買わないのだから。
「ドラッグストアとホームセンターに寄るが、ほかに行きたいとこあるか?」
「いえ」
つれない返事に、田島は肩をそびやかした。
色気の向く先にいる相手を、見てみたいものだ。
大樹が、どれくらい変わるのか、デバガメ的に気になった。
そして。
田島は、彼が別の意味で変わった表情をするのを、目撃することとなったのだ。
ドラッグストアで。
大樹は、足を止めて固まっている。
視線は、まっすぐ一点。
「ん?」
田島が覗き込むと、太りぎみのオッサンが、消毒薬コーナーで何か探している。
「知り合いか?」
その言葉に、大樹はハッと我に返ったようだ。
「いえ」
すぐさま、彼はそこを離れた。
だが。
意識が、さっきの男に残っているのは、ありありと分かる。
違う通路に入って、考え込む仕草。
その目が。
田島にとんだ。
「すみません、携帯借りられますか?」
強い気持ちが見て取れる。
謎の多い小僧だ。
田島は、ポケットから携帯を取り出しながら、そう思っていた。