38/127
ぼーっと
□
最初、あれが貴恵だとは分からなかった。
髪が短くなった上に、くるんくるんだったのだ。
おまけに化粧までしていた。
客商売だから当然なのだろうが、大樹は驚かされっぱなしで。
たった二ヵ月。
しかし、それはいきなり貴恵を大人にしてしまったのだ。
中身は、まったく貴恵のままだったが、髪を扱う指は、見知らぬ匂いが染み付いていた。
大樹は、髪をきられながら、その指が気になってしまう。
指先から、貴恵は一枚皮を脱ぐように大人になった気がしたのだ。
何かしゃべらされたが、帰りの電車で、大樹は何も思い出せなかった。
いつもより、自分の心臓の音が早くて。
貴恵を思い出すと、それがひどくなる。
なんだろう。
風通りのよくなった首筋が、貴恵の指を覚えていた。
あの指が、大樹の心を揺さ振るのだ。
おかげで。
「門限破って散髪か」
呆れ顔で寮長に迎えられたことも、後で思い出せなかった。
それくらい、大樹はぼーっとなっていたのだ。
こんなことは、初めてだった。