表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/127

棚にしまわない

 これから知らないところで、生活を始め、知らない人たちと暮らすことが、心細いわけではない。


 大樹にとっては、人も観察材料になっていたから、どういう人に出会っても、自分なりの分類をして、棚にしまうだけだ。


 ただし。


 一部の人だけは、棚にしまわないようになった。


 吉岡や美津子――そして、貴恵。


 大樹に好意を向けてくれる人たちだ。


 彼が生きたいと願う心を、助けてくれる人たち。


 特に貴恵の心は、一番心に響く。


 言葉が、強く強く訴えかけてくるのだ。


『忘れないで』と。


 他の言葉を言いながら、一番強く伝わってくるのがそれ。


 ああ。


 心配することなどないのに。


 大樹が貴恵を忘れるなんてありえないのだから。


 恩義は勿論、言い尽くせないほどある。


 それ以外に。


 大樹の中に忘れたくない気持ちが生まれていた。


 貴恵を小さく感じた、あの時に芽吹いた何か。


 彼女は、強いリーダーでもなんでもなく、年相応の女の子なのだ、と。


 まだ、大樹は頼りなく、頭でっかちなだけだが、生まれた気持ちとバランスが取れる日を、自分でも待っている気がした。


 15才にはまだ、うまく噛み砕けない気持ち。


 そのもどかしさ。


「うん…貴恵ちゃん」


 そのもどかしさが胸に詰まって――大樹は鼻先が、つんと痛んだ。


 生まれて初めて感じる痛みだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ