30/127
辞書爆発
□
「貴恵…ちゃん」
すぐに彼女はみつかった。
アパートのすぐそばで、立ち尽くしていたからだ。
涙ながらに、こっちを睨んでいるのは、さっきの大樹の対応を恨めしく思っているせいか。
問題は――どういいわけしたらいいか、分からないこと。
こんな場面など、今までなかった。
ここまで、面倒なほど、人と感情をもつれさせることは。
いや。
もつれはあった。
学校など、子供だらけなのだから、もつれなど日常茶飯事だ。
ただ、大樹にそのもつれを解く気がなかっただけ。
解きたいと思わなかった彼は、だからこういう時の対処を学んでこなかった。
そのツケが、貴恵相手にいきなり回されたのである。
泣かないで。
仁王立ちで攻撃的な涙の貴恵に、大樹は戸惑う。
最近の彼女は、とても難しい。
慎重に言葉を選んで、気持ちを伝えよう。
大樹は、脳内国語辞書を開いた。
……。
……。
「わざわざ追い掛けてきてまで、だんまりかー!」
ドガーン!
脳内で悠長に辞書をめくっていた大樹は。
貴恵の怒りの爆発に巻き込まれ――辞書を吹っ飛ばしてしまったのだった。