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おっさん二人

「学者向きだね」


 ラボに戻ってきた小野は、白衣に袖を通しながらそう呟いた。


 吉岡が、すぐそこにいるのを知ってのことである。


 彼は本来化学班とは無縁なのだから、ここにいる必要はない。


 ただ、今日小野が、あの少年に会うと知っていたから、気になって顔を出したのだろう。


 吉岡お気に入りの中学生。


「高校の夜学じゃ物足りないだろうけど、勉強したい奴は、どんな環境からでも芽を出してくるものさ」


 あの大樹という少年は、知識に対しては貪欲だが、その知識を行使することは、どうでもいいことのようだった。


 そこが、小野に学者肌と思わせる要因だ。


 目に暗い影はあるものの、それはまだ光には負けておらず、今の段階では、まだ、知識を悪用しようという考えはない。


 しかし、それは研究姿勢に良心がある、というわけでもない。


 ただ、彼は純粋に探求したいだけ。


 まさに――学者肌。


「ああいう頭のいい子は、正しい道に進んで欲しいもんだ」


 吉岡のそんな心配は、小野の苦笑を誘う。


 彼には学者肌の気持ちを説明しても、頭では分かっても理解はできないだろう。


 大樹少年の未来に、吉岡が考える正しい道をあてはめようとするだけだ。


「彼は、良いも悪いも関係ないんだ」


 その事実は、本当は彼ら二人にとっては微妙なものだった。


 正直、職務より、仕事絡みの研究が楽しい小野には、どうでもいいことなのだが。


「ただ…」


 不思議な顔をする吉岡を、小野は眼鏡ごしにゆっくりと見た。


「ただ…あるがまま育っていく…実に子供らしい成長じゃないか」


 ハハハ。


 白衣のポケットに両手をつっこんで、小野は笑ってみせた。


「実に、お前らしい結論をありがとよ」


 吉岡は、また一本白髪を増やしたような顔で、立ち去ることに決めたようだった。

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