吉岡さん再び
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なんだろう、この距離は。
貴恵は、大樹との間に生まれた、微妙なそれを感じていた。
ついこの間までは、まるで家族みたいな近しさがあったのに、半歩遠ざかってしまった気がする。
一緒にご飯も食べるし、図書館で待ち合わせもするのに、一瞬、お互い戸惑うようになっていた。
やだな、こういうの。
貴恵にとって、ガラスみたいな壁はストレスに感じる。
しかし、どう打開したらいいのか分からなかった。
だから、うまく言葉もかわせないまま、こうして家路をたどる二人。
大体。
原因は、あの白髪のおっさんだ。
大樹にぶつけきれずにいる不満は、そのまま全部、あの男へと向かった。
「おっ」
そうそう、いまこっちを見て声をあげたおっさんとそっくりの顔。
「って、本物!?」
思わず、貴恵は変な声をあげてしまった。
なにしろ、ここは彼らの住むボロアパートの前。
なぜにあのおっさんがいるのか。
「やぁ、大樹くん、お嬢ちゃん。この間はどうも」
今日はお礼にうかがったよ。
ケーキの箱を掲げる男の言葉に、貴恵は警戒を強めた。
何故、家まできているのか。
大樹が教えたとは、到底思えない。
なんのお礼かは知らないが、大樹と二人にするのは、はばかられた。
「うちにあがってもらう?」
動かない大樹に、そう話を切り出した。
二人なら、危機になってもなんとかなりそうな気がしたのだ。
大樹が、こちらを見る。
あの、揺らいだ目。
そのまま少し考え込む顔になった後――こくり。
ゆらぐ目は変わらないまま、大樹は頷いた。