知らない美少女に転生した
目覚めたら、見知らぬ少女になっていた。
というか、目覚めた瞬間、別の世界の記憶が頭の中を支配した、というのが正しい。
ここではない別の世界。魔法も何もない、科学が支配する世界。私はそこで生まれ、いや、違う?私はアリスだ。╳╳╳ではない。なのに自分を╳╳╳だと思う。でもアリスの記憶もある。私は混乱して倒れてしまった。
アリスは、子爵家の娘だ。上に兄が一人、妹が二人。家は割と貴族の中でも裕福なほう。アリスはまだ10歳の娘だ。かなりの美少女、のはずなのだが。
アリスは、それとも╳╳╳は、鏡を見た。
体が、肥えている。顔立ち自体は美しいが、これでは社交界では人気は出ないだろう。ストロベリーブロンドの髪や、青空の色を溶かしたような瞳はいいが。前まではこうではなかった。原因は一人の友人だった。
ロザリンド。赤い髪のこれまた美少女。ただ、意地悪な事を言うならアリスと比べてはっとするような美しさはなかった。華がないのだ。
まあそれはいい。そのロザリンドがよくお茶会に誘ってきては、高カロリーのお菓子をよく薦めてくるので、すっかり太ってしまったのだ。
アリスの記憶と、╳╳╳の経験からそれが分かった。アリスは無自覚、というか、太ってるのを自分でごまかしていたけど。
さて、これが╳╳╳の夢なのか、それともアリスの思い込みなのか分からない。だが、ともかく痩せなければ、とアリスは思った。太りすぎは単純に健康を害するし、見映えもよくない。ということで、しばらくロザリンドと遊ぶのはナシだ、運動に集中しよう、と思っていたのだが。
「アリス、どうして私を無視するの?私達、いい友人だったのに。私、何かしたかしら?」
ロザリンドが家に襲撃してきた。そして、手土産にはこれまた高カロリーなお菓子。
「ごめんね、無視してるんじゃないの。ただ、しばらく勉強に集中したいの」
「なんだ、私の勘違いだったのね。じゃあこれ、仲直りのしるしよ!」
お菓子を押し付けてきた。
「それからこれ、アリスに似合うと思ったの。受け取って」
ロザリンドが渡してきたのは、臙脂色のリボン。かわいいけど、アリスには似合わない…。
「ありがとうロザリンド」
私はロザリンドが帰ったあと、お菓子を捨てて、リボンをしまった。
「ロザリンドは帰ったの?」
アリスの母が話しかけてくる。
アリスによく似た顔で、美しい女性だ。
「お母様」
「お母様、やっぱりあの子のこと好きになれないわ」
「そうね」
アリスがそう返すと、母はあら、と不思議そうにする。
「前は私がそう言ったら怒ったのに」
「ロザリンドがどういう子か分かったもの」
ロザリンドにもらったリボン。おまじないがかかっていた。すこしだけ考えを鈍くする。そういうおまじないだった。
「あの子、多分私に嫉妬してたんでしょ?」
ロザリンドはフレネミーだった。
╳╳╳は、前世わりと美人ではあった。でもそれは努力したからだった。子供の頃は太っていた。だから男子にからかわれたり馬鹿にされたり。それでも側にいてくれる女友達はいた。
だから、頑張ったのだ。友達に恥をかかせてはいけないと、ダイエットや身だしなみを。そうしたら、その子達は面白くなさそうだった。私を抜いてトイレに行ってた時、話してるのを聞いてしまったのだ。
「╳╳╳、最近調子乗ってるよね」
「おどおどしてる方がお似合いなのに」
…なんとなく分かってた。その子達より、╳╳╳の方が可愛い。だから、嫉妬だって理解してしまった。
ロザリンドの瞳は、その子達と同じだった。
ロザリンドとは距離を置き、他の子達と仲良くしていた。ロザリンドと仲良くなる前の子達。
「アリス、ロザリンドとばかり仲良くするから寂しかったのよ」
「それに、ロザリンドの言うことばかり信じてるように見えたし」
ごめんね、皆。本当にいう通りだと思う。ロザリンドはアリスを褒めまくることでいい気分にさせ、だんだん女子達から孤立させようともしていた。
気付いてよかった。あのままではアリスはあまりいい結果にならなかっただろう。
体もだいぶやせて、元の体型に戻った。なんとなく他の子達もロザリンドとは距離をとっている。ともかく、╳╳╳の記憶には感謝だ。
◇◇◇◇◇◇
15歳。社交界デビューの時が来た。アリスは社交界の話題をかっさらい、複数の魅力的な貴族男性達から求婚されていた。そう、それは原作の乙女ゲームの通りに。
ロザリンドは唇を強く噛んだ。結局ゲームのストーリーを変えられなかった。ロザリンドはゲームでは攻略対象に横恋慕する女だった。前世好んでいた悪役令嬢ものの悪役令嬢のように、攻略対象の婚約者ではなかった。そもそも乙女ゲームにはそんな女キャラは出てこないらしい。
ずるい、と思った。ヒロインは恵まれていてずるい。複数の男達に愛される未来が確約されていてずるい。
だからヒロインの魅力を初めから潰そうと思って近づいたのに。だってロザリンドだって十分美しい。ヒロインさえ潰せば男たちの関心はロザリンドのものになるはずだった。前世ロザリンドは美しくなかった。男に愛されようとするなんてバカのすることだと思っていたから。だけど、この世界では貴族女性は男の関心に振り回されるのだ、だからロザリンドが美しさに拘るのはしょうがない。ヒロインの邪魔をちょっとしたのだってしょうがないのだ。
ある時からヒロインはロザリンドを避けるようになり、それからだ。ヒロインが再び美しくなったのは。いや、ロザリンドの方が美しいはずだ。ヒロインは大したことない。だから、普通にしていればロザリンドを男達は選ぶはずなのだ。きっと、ストーリーの強制力があったんだ。だからヒロインはロザリンドから逃げたし、男達はロザリンドを見ない。ロザリンドの不幸はヒロインのせい。だから、ロザリンドはヒロインに多少おいたをしてもよかったはずなのに。
ロザリンドは知らなかった。アリスをわざと孤立させようとしたのが貴族女性のネットワークでバレていること。だから、みみざとい貴族の家からは避けられていること。それを知ったロザリンドの家からは見捨てられかけていること。
それをまだ、ロザリンド、いや、ロザリンドだった女性は知らなかった。




