01 鮮血の嫁入り
新連載です。主人公が転身という、女性から男性に変かする特殊能力を持っている元男性陰陽師の者です。TSに当たるかと思いますので、苦手な方は引き返してください。
俺はどうやら異世界ファンタジーな世界で、アリストっていう侯爵令嬢に憑依転生ってやつをしてしまったらしい。
見知らぬ天井で目覚めた後、使用人との会話でそれを理解した。
そして、その翌日の事。この屋敷の主たる父親の執務室へ呼ばれた。
「アリスト、お前は本日15歳の誕生日だ、つまり1年間の婚約期間を終え、王命によりかの宿敵ガルナバーシュの家門に嫁ぐことになる。身を清めて明日、旅立つように」
本来なら中学生くらいだが、成人年齢がこちらの世界は15らしい。
「……はぁ」
15歳となった娘、本来は引っ込み思案で大人しい少女、アリスト・フォン・バージェライネン侯爵令嬢は、身分のわりに誕生祝いのパーティーもして貰えてなかった。
輿入れ用のウェディングドレスが誕生日プレゼントと言われたりしてるあたり、なんとも雑な扱いの人生を送ってきたらしい。
しかもトドメに和合目的らしいが宿敵家門に嫁がせられる、はた迷惑な政略結婚ときた。
「お前は先日ハーピーに攫われかけ、高所から落下し、その時に白髪になり、記憶にも障害が残ってしまったが奇跡的に池に落下し、外傷はなかった。恐らくは豊富な魔力が身を守ったと思われるから、ギリギリ返品はされまい、何しろ王命ゆえ」
めちゃくちゃ説明してくれてサンキューな。
記憶喪失部分を補完してくれてんだな。多分。
そう、今の俺には令嬢だった時の記憶があまりないのだが、日記を見たところ奇異な体質ために屋敷の者達にも気持ち悪がられ、遠巻きにされ、かなり孤独で不幸そうであった。
普通なら侯爵令嬢の誕生日なんてパーティーくらいするもんと思うけど、それもないし。
「はぁ……」
「ともかく陛下はその白き髪と無駄に多い魔力量で何か勘違いしてお前に期待されている。相手は女嫌いらしいが、お前には転身という、異性の姿になれる能力もある、いざとなったら男の姿で閨で組み敷け」
「……はぁ」
さらっととんでもないこと言いやがる、この親父。双方男の身体では子は成せないだろうに。
とりあえず既成事実さえ作ればいいのか?
「はぁはやめろ、はいと言え」
一応父親らしいし、そのくらいは従っておくか。
表向きはまだ15の小娘だしな。
「はい」
そういう訳で、アリストと呼ばれる俺は令嬢として、宿敵らしいガルナバーシュという家門に嫁ぐしかないらしい。
辺境伯っつったら侯爵か、それよりやや偉いくらいの存在だろう。つまりは高位貴族だ。
とにかくなめられないようにしなければ。
前世の実家の陰陽師の家でも、妖相手でも人間相手でも、なめられたら終わりと言われて育った訳だし。
政敵だったなら、あまり歓迎はされんだろうが、覚悟を決める。
やられたらやり返せばいい。
そんじょそこらのか弱い令嬢とは違うってことを、見せてやる。
そうして波乱の輿入れとなり、長時間の馬車移動とでケツの痛みに耐えに耐え、ようやく港に着いたら今度は船旅。
そしてまた馬車移動してガルナバーシュ家の治める領地に着いた。
城門をくぐり、くそ広い庭に入った。時刻は夕方の四時くらいになりかけていた。
「ガルナバーシュへようこそ、アリスト・フォン・バージェライネン侯爵令嬢、私は家令のスチュアートと申します」
執事服を着た白髪混じりの男が頭を下げた。
「辺境伯はどちらに?」
俺は己の夫となる男を探したが、見あたらない。
「ただいま執務中ゆえ、挨拶は省略させていただくことになり、大変申し訳ありません」
遠路はるばる輿入れのために来てやったのに、随分な対応だ。
さすが敵対家門、完全にアウェーな雰囲気だ。
騎士と使用人達はずらりと並んでるが、雰囲気が剣呑だ。
「まさかの省略か」
花嫁の出迎えより執務が大事なのか。
それは明日以降じゃだめなのか?
「お荷物をお預かり致します」
使用人の男が俺のトランクを手にした。
着替えが数着、最低限の荷物しかないから自分でも持てるが、一応侯爵令嬢なら任せるべきよな。
「ああ」
「そして身の回りのお世話をする者達を簡単に紹介させていただきます」
先に夫を紹介して欲しいのだが。
「護衛騎士のレンダールとジルスです」
「「よろしくお願いします」」
眼光鋭い騎士二人が挨拶をくれた。
「ああ」
「こちらは御者のダウルです」
!? こ、この男、ただの御者のくせに、腕組みしたままだぞ!?
「貴様、なんで腕組みしたままなんだ。お前が実は辺境伯か? それともお忍びで来てる王族か何かか?」
「い、いいえ、こちらはホンモノの御者でございます」
家令が慌てて説明する。
「平民の分際で貴族令嬢、この屋敷の夫人となる者を前にして腕組みしたままとは礼儀がなってないにも程があるだろう」
「も、申し訳ありません」
家令は謝罪するが、御者は相変わらずぶすっくれた顔で腕組みしてる。 オーラは錆色、その瞳にも俺に対する侮蔑、嘲り、嫌悪が見える。それは敵を表す色だ。御者はある意味命を預けることになる存在だ。捨ておけない。
「教育が必要だな」
俺はそう言ってドレスの下にこっそり仕込んでいた剣を取り出し、御者の右腕をズバッと切り落とした。
「ぎゃああっ!!」
右腕を切り落とされ、血を吹き出しながら絶叫する御者。
周囲の者達は一気に青ざめたり、怒りの表情を浮かべたりしてる。
「平民の御者風情がずいぶんなめ腐った態度じゃないか。本来なら両腕切り落としてやりたいところだが、片方だけで許してやったことに感謝しろ」
なめられたら、終わりだ。
そう言われて育ってるから、見せしめの意味を込めてやった。
しかし、両腕を落とさなかったのは、ほんの少しの温情だ。家族か誰かの助けがないと着替えも出来ないだろう足手まといが出来るから。まぁ、初回だからな。
「ば、バカモノが!」
家令が慌てて、御者の頭を下げさせる。
しかし遅いっつーの。
「いてぇーっ!」
「早く止血しろ!」
「医務室へ連れて行け!」
城門をくぐった庭先で既に大騒ぎである。
俺は血を滴らせる剣を一振りし、
「きゃっ!!」
さっきこちらを睨んでいたメイドの白いエプロンを剥ぎ取って剣を拭き、その血で汚れたエプロンを投げ捨てた。
家令は何故か御者を医務室へ付き添って行ったため、今度は若い執事に城の入口まで案内された。
城の中に入ると、他のメイド達がエントランスに集まっていた。
「お部屋までこのメイド、アンナが案内いたします」
紹介されたのは生意気そうな赤い髪のメイドだった。
「ああ」
俺は使用人を一瞥して部屋まで案内してくれるらしいアンナという赤い髪のメイドの後を着いて行くことにした。
しかし、エントランスから見えていた上に続く階段をスルーして、1階の廊下を進んで行くことに、俺は不自然さを覚えた。
主やその夫人の部屋と言えば最上階に近い場所ではないのか?
だんだん質素な雰囲気の通路に進んでいく。
妙だ、まるで使用人の居住区域に見える。
「おい、待て」
俺は嫌な雰囲気のメイドに声をかけた。
「何か?」
「本当に俺……いや、私の部屋はこちらで合ってるのか? もし辺境伯夫人としてふさわしくない、狭苦しくてしょぼい部屋に案内したら、貴様の手足切り落としてツボか樽にぎゅうぎゅうに押し込んでやるぞ」
俺の脅しに一気に青ざめるメイド。
どうやら図星か。嫌がらせで使用人の使うような部屋に連れて行こうとしたらしい。
「ま、間違えました、申し訳ありません! 少し頭がぼーっとして……!」
「寝ぼけるのもたいがいにしろ」
俺はじろりと睥睨する。
「申し訳ありません!」
女はガタガタと震えだす。その程度の覚悟で喧嘩を売るな、カスが。女とて容赦はせんぞ。
「ここの使用人はどうなってるんだ。御者は紹介時に腕組みしたままで立ってるし、カッとなって思わずその右腕を切り落としてやったが」
「ひぃっ!!」
城内にいたこの女はあの騒ぎを見てなかったのか。
あからさまに動揺し、床にへたり込んだ。
腰がぬけたらしい。
別のメイドが走ってきて、案内役を代わると言い出した。
まぁ、よかろう。
そして、エントランスまで引き返して階段を登る。
やっばりな、なんかおかしいと思った。
いくら元は敵対家門からの嫁入りでも、貴族相手に無礼すぎるだろ、頭おかしいのかここの使用人ども。
こうして俺は最上階の豪華な部屋に通された。
他の使用人もこんな調子でくるなら、この先も油断できない。
到着早々、波乱の予感だ。
新連載です、応援していただけたら嬉しいです!
カクヨム先行ですが、こちら初日は3回更新があります。
(多分、埋もれるから書き溜め分です、AI量産ではありません人力です)




