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薄幸令嬢、自分で道を切り拓く!~諦めが悪くて何が悪い!~  作者: 玉響なつめ
第一幕 逃げる、その先

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2話

 義母のラモーナと義妹のカトリンは、家族になった当初はとても良い人たちだった。

 

 ちょっと香水臭くて、家族が大好きだって言う義母は大げさだけどいい人なんだと思っていた。

 年齢が半年しか違わないのに、お姉様お姉様って後ろをついてくる義妹は血の繋がりがなくても可愛いと思っていた。


(でも、そう思っていたのは私だけ)


 父が亡くなったと連絡が来て、葬式が終わって、弁護士なのかなんなのか……あの時の、幼い私にはわからないけど、とにかく遺産や爵位はどうのって話をしに来た人たちが帰ってから、義母は豹変した。


 あれはまさしく――人が変わったかのような、そんな瞬間だった。


『ああ、くそったれ! ようやく貴族の後妻に入れて贅沢な生活ができると思ったのにポックリ逝きやがって!! 跡取りはこの小娘!? 成人まで養育して爵位を継がせたらあたしたちに出ていけだって!? フザけんじゃないわよ!!』


 花瓶をなぎ倒して叫ぶ義母は、私の知らない人のようだった。

 いいえ、あれが本性だったのだけれど。


 お父様は知人の紹介で知り合ったと言っていたけれど……それが誰なのか、今はもうわからない。

 オルヘン伯爵家は父の家系、そして父は一人っ子だった。

 そのため、父の血を継ぐ唯一の子……私だけが、オルヘン伯爵家の正当な後継者だ。


 義母はそれが気に入らなかった。

 何も知らず甘やかされて育った小娘が、ただ(・・)生きているというだけで貴族という特権階級の中でも当主という特別な座に座るだなんてと鞭で叩かれたことがある。


 彼女がこれまでどんな暮らしをしてきて父の後妻になったのか、私は知らない。

 でも言葉の端々から察するに苦労はしてきたのだろうし、貴族に対して憧れと憎しみの両方を抱いているようにも思う。

 

 しかし私を手放せば、義母と義妹はまた平民に戻らなければならなかった。

 私の後見という立場を失えば、彼女たちは戻る生家と呼べるものはなく、父と出会う前の身分に戻るのだ。


 それを考えれば私という駒を手放せるはずもなかったのだ。

 しかし愛情を持って自分を支えさせる……なんて方法を彼女は選ばなかった。

 義理の娘なんて、本当は鬱陶しいくらいに思っていたのだから、しょうがないのかもしれない。


 だからあの人は、私を支配することを選んだのだ。


『あんたは今日からメイドよ! あたしに逆らおうなんて思うんじゃないわよ? 小娘が一人で騒いだところで、だぁれも信じちゃくれないんだからね!! いい加減諦めなさい!』


 彼女の言葉は何一つ、嘘じゃなかった。

 父が再婚してから死ぬまで、義母は〝よき母〟であり〝よき妻〟だったから。


 夫を亡くして憔悴する義母が構ってくれないからと私が癇癪を起こしているのだ、嘘を言っているのだ、そう彼女が泣いて訴えればまだ幼かった私は『良い子にしなくちゃだめだよ』と周囲に窘められるだけだ。


 そうして私は両親を亡くした哀しみから我が儘放題で引き籠もるようになった……なんて世間ではそう話されているのだと、義妹が教えてくれた。


『可哀想なお姉様! あんたなんてこの家を手に入れるための奴隷でしかないのにね。外ではすっかりわたしたちは〝厄介なリウィア・オルヘンを養育している〟可哀想な母娘ってことでみんなからチヤホヤしてもらってるんだから! もうお姉様は伯爵令嬢に戻れないわね、諦めて?』


 クスクス笑う彼女の、その言葉に私は愕然としたことを覚えている。

 彼女だけは私の味方だと思っていたのだ。


 義母に殴られた時も、部屋に閉じ込められて三日三晩食事を抜かれた時も、義妹のカトリンだけが心配してくれていた。

 何もできなくてごめんなさいってさめざめと泣くこの子だけは、偽りじゃない私の家族だって信じていたのだ。


 それなのに、彼女はそんな私を愚かだと嘲笑って、絶望させてやりたかったと楽しそうにしていた。


(……私が何をしたっていうんだろう)


 貴族の家の娘に生まれて、何不自由なく暮らしていたくせにってカトリンに言われた。

 けれど、けれど……十二歳で父を亡くしてから今まで、私は虐げられて育ったのだ。


 義母の連れ子のカトリンは、私の父のおかげで貴族同然の生活を送っている。

 父が亡くなった後も、私が未成年のうちは保護者(・・・)である義母が代理当主になっているおかげで彼女たちは今もその恩恵に与っている。


 だけど……ラモーナたちは、そんな事実すら許せないらしい。


(……私が跡取りだから)


 義妹のカトリンには、継げるものは何もない。

 私が跡を継いだら、彼女には何も残らない。

 いずれは義母と共にオルヘン家を出て行かなければならない立場にある。


 それが、とにかく許せないらしかった。

 貴族として生まれただけの私が、いつまでも貴族でいられることが許せないと。


(そんなことを言われたって困るわ)


 あくまでそれは法律で決まっていることだ。

 私が伯爵家の娘に生まれたくて生まれたわけではないし、逆を言えばカトリンは平民に生まれたかったわけでもない。

 最初から何でも持っていたなんて言われても、私にどうしろっていうんだろう。

 

 妬ましいとか、羨ましいとか、そういう気持ちは否定しない。

 同じような気持ちは私の中にもあるからだ。


(だけど……それをぶつけられたって困るの)


 どんなことがあっても法律上、カトリンがあの家を継ぐ方法はないのだからズルいと言われたってどうしようもないのだ。

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