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薄幸令嬢、自分で道を切り拓く!~諦めが悪くて何が悪い!~  作者: 玉響なつめ
第一幕 逃げる、その先

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1話

(……と意気込んで出てきたのはいいけど、これからどうしよう)


 私は途方に暮れていた。

 荷物は数枚の着替えと、なんとかこの一年でため込んだ銀貨が数枚。


 オルヘン邸の庭仕事をしている中で、壁に穴が空いているのにはだいぶ前から気づいていた。

 本当なら直さなくちゃいけないってわかってたのに、どうしても塞ぐのは駄目な気がして……私は適当な資材を積み上げて、隠していた。

 庭師も下男もお金の無駄だって解雇した義母たちはそんな私の行動に気づくはずもなく、私はそこから脱出したのだ。


(とりあえずこの銀貨があれば当座は凌げるだろうけど……)

 

 それだって帳簿をつけていたからわかるけど、一般メイドのお給料一ヶ月分ってところなので早急に仕事を見つけないと飢えること確定だ。

 実際に生活するとなれば、どこかで部屋を借りるか何かして、食事だってなんとかしなくちゃいけない。


 宿に泊まれば快適だろうけど、それではきっとお金はあっという間になくなってしまうんだろうということは世間に疎い私だってわかる話だ。


(でも仕事ってどうやって見つけたらいいんだろう……)


 家にいた時は義母にあれをやれこれをやれって言われるままにメイドや料理人たちに習って覚えて、その後はいつの間にか家にいたグレッグに書類仕事を覚えろって言われて仕事を習った。


 与えられる仕事に手一杯で、成人間近とはいえ私は世間というものを知らないままだ。

 

 それを考えると、この道を行けば町だということはわかっていても……町に何があるのか、どうしたらいいのかってことすら何も知らなくて、不安ばかりが募る。

 あくまで私の中にあるのは知識だけだ。


 領内の運営に関係ある、相場や地図、取り引きをしている商会が通るルート……そういったことは頭に入っていても実際のことは何も知らない。


(本当に、町と反対の道を行くんでいいのかな……ううん、大丈夫よ。普通に町に行ったんじゃすぐにバレちゃう……!)


 今やオルヘン伯爵家で働く使用人は、義母とグレッグの言うことを聞く人たちだけだ。

 ということは、町に行っても父を知っていて私を助けてくれるような人がいるかどうかもわからない。


 かつて働いてくれていた使用人たちがどこに住んでいたのか、どこに行ってしまったのかも知らない私には頼れる人がいないのだもの。

 なら、義母たちがちょくちょく遊びに出ている町中に行くなんて危険は冒さず、反対方向でどこか……そこから領の外に出る馬車か何かを教えてもらうのがいいと考えたのだ。


 とにかくグズグズしてはいられない。

 もう逃げ出してきてしまったのだから、今更怖じ気づいたところでどうにもならないのだ。


(……そうよ。私は成人まで逃げ切って、堂々とオルヘン伯爵家を取り戻してみせるって決めたんだもの)


 気を取り直して歩き出す。

 ある程度行ったところで振り返ると、私が暮らしていた家はちょっとだけ……小さく見えたのだった。


(いつか、帰るからね)

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