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「ただ、ゆっくりする前に国王陛下と王妃様に謁見したいと思っています」
「リリアナが自ら行く必要はないんだぞ?私が行くことも」
ゆるゆると首を振る。
国王陛下とは数回しか言葉を交わしたことがないけれど、王妃様とは王妃教育でお世話になっていたもの。
今までお世話になったお礼を伝えたい。
「わかった。実は国王陛下と王妃様からも会って謝罪したい旨の言伝を預かっている。話してくるといい」
「そうするわ」
口に出すのを迷う素ぶりを見せる父様。
言いにくいことなのかしら。
「それから...リリアナ。貴族の令嬢である限り、婚約は避けられないだろう。見ず知らずの相手より、義弟であるレイと婚約するのはどうだ?」
レイと!?
従兄弟だから法律的に婚約や結婚は出来る。
親戚同士で婚姻を結ぶというのも珍しくはないし。
確かに見ず知らずの相手よりは良いかもしれないが、私はレイのことを義弟としてしか見たことはない。
何よりレイの気持ちはどうなのか。
「それは父様の提案ですか?」
「レイからの提案だ。嫌なら断っても良い」
「いえ、保留でお願いします。レイと話してみます」
今、決断を下すのは早い。
レイの真意を聞いてからでも遅くないはず。
話を終えると、お父様は公務に戻って行った。
使用人にレイを呼んで来てもらい、自室に迎え入れる。
「レイ、父様から聞いた話は本気なの?」
「義姉さんとの婚約のことだよね?本気だよ」
レイの目は真剣で、とても冗談には聞こえなかった。
「私は義姉なのよ?」
「正確には従姉」
「そうだけれど...私は貴方のことを義弟以上に見たことはないわ」
幼い頃に義弟になってから今まで男の人として見たことがない。
レイに限らず、私は誰に対しても恋愛感情を持ったことがないのだ。
「知ってる」
「なら、どうして...」
「僕はリリアナが大好きでずっと見てきたから」
え...?
レイが私のことを好き?
「やっぱり気付いてなかったんだ」
「え、ええ」
だってそんな素ぶり...いや、思い返してみればあったかもしれない。
それを私はただのシスコンだと思っていた。
「リリアナは僕のことが嫌い?」
「嫌いなわけないじゃない!」
「じゃあ、婚約しよう。他の男よりかはマシでしょ」
レイは世間からみてマシどころか優良物件だ。
公爵家の優秀な跡継ぎで、見た目も良い。
他に私より条件が良くて可愛い令嬢もいるはず。
「私でいいの?」
「リリアナがいいんだよ」
私だってどうせ婚約するなら浮気しない一途な男がいいに決まってる。
レイなら気心もしれているし、最適だ。
「僕と婚約してくれれば、この公爵邸でゆっくり過ごせることを約束するよ」
父様から私の願いを聞いていたのね。
私の目的にも合っているし。
決めた。
「わかったわ。婚約しましょう」