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婚約破棄をされた後、公爵邸へ戻る。
「義姉さん、おかえり」
姿を現したのは、短い黒髪に銀の目。
義弟であるレイ・ミクロスだ。
「ただいま、レイ」
レイは私の従兄弟で義理の弟。
公爵家の跡継ぎとして、優秀なレイが養子で迎えられたというわけだ。
父上もわたしも、それはそれは可愛がっている。
「もしかして、何かあった?」
「そうね、色々。話、聞いてくれる?」
そんなに顔に出やすいかしら。
レイは私の話をよく聞いてくれる。
私もつい甘えちゃって多く話し過ぎてしまうことが多々あったり。
湯浴みをした後、自室で事の経緯を説明する。
「へぇ、あのバカ王子が義姉さんにそんなことをしたんだ?」
レイが声のトーンを落とす。
瞳も仄暗い。
私の為に相当怒ってくれているのがわかる。
「もう、いいのよ。話を聞いてもらってスッキリしたし、レイが代わりに怒ってくれたし」
「義姉さん...」
なんかしんみりした空気になってしまった。
話も終わったことだし、レイと離れてそろそろ寝ようかしら。
レイが口を開く。
「僕だったら絶対、幸せにするのに」
「そうよね、レイとだったら幸せになれそう」
レイの冗談にふふっと笑う。
レイは優秀で魔力も高いし、イケメン。
身内の贔屓目なしでも、イケメンなのに浮いた話がない。
シスコン気味だから、かしら?
「そろそろ寝るわ。おやすみ、レイ」
「...おやすみ、義姉さん」
複雑そうな顔を誤魔化すように柔らかく微笑んで去っていった。
心地の良い朝。
私の気持ちはすでに切り替わっていた。
ノックがある。
このノックの仕方は父様ね。
「どうぞ」
「あのバカ王子が婚約破棄をしたと聞いた。大丈夫か?」
「ええ、もう大丈夫ですわ。父様はどこまでご存知なのですか?」
「謂れのない罪を着せられたことや大勢の前で婚約破棄されたことは知っている」
「全部知っていらっしゃるのね...」
謂れのない罪。
父様はそう信じてくれるけれど、皆がそう思うとは限らない。
真偽を確かめ、私自身の無実を証明する必要がある。
「リリアナはどうしたい?」
「まず、真偽を確かめて貰いたいですわ。私は無実ですから。それから、許されるのであれば今まで忙しかった分、ゆっくりしたいです」
「勿論だとも...!リリアナの願いならば全て聞き入れる」
父様は涙ぐんでいた。
母様が逝去してからというもの、形見のように私のことをそれは大事に育ててくれた。
「ありがとうございます」