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休憩室には私とその令嬢しかいない。
密室空間で二人きりか。
その令嬢が何かする可能性もあるし、警戒しよう。
「リリアナ様、私丁度ハンカチを持っているのです」
にこっと微笑む姿には緊張が含まれているような気がした。
まさか...。
そう思った瞬間、そのハンカチで私は口を塞がれる。
思いっきりそうしてきた令嬢を突き飛ばした。
どうしよう。
こんな時に眠気が出てくる。
催眠剤がハンカチにふくまれていた?
「誰か...!」
私の意識はそこで途切れた。
次に瞼を開けるとそこは見知らぬ部屋。
窓はなく、ボロボロの床に天井。
椅子に私の手足が縛られていて身動きが取れないが、視線を動かす。
目の前に立つのは、ルーナとエリオス。
「貴方達の仕業よね?」
「見れば分かるでしょ。ワインをかけた令嬢は買収していたの。で、私達の元に貴方を連れてきてくれた訳」
やっぱり...。
こんなことを企てるのはルーナとエリオスしかいないもの。
「私を監禁したって罪が出来るだけ」
「そんなことないわ。貴方はこれから不慮の事故で亡くなるの、ふふっ」
不慮の事故?
私を何らかの方法で殺すつもりね。
「今すぐ殺すつもり?」
「まだよ。貴方には利用価値があるもの~」
利用価値...?
エリオスを見るが、目は虚ろで様子がおかしい。
ルーナに何かされたのだろうか。
私もこれからそうなるのだろうか...。
不安が押し寄せる。
「私はね、貴方みたいな人大っ嫌いなのよ。だから、闇の魔法で聖女の魔力を奪うわ!やったことはないけれど、きっと上手くいくわぁ。
だって、私は特別な存在なんだもの」
特別な存在...?
意味がわからない。
それよりも、闇の魔法。
実在していてルーナが持っているというの?
それならばエリオスの様子がおかしいのも、精神干渉で説明が付く。
下手に刺激するのは得策ではない。
レイは絶対来てくれる。
その間に私が出来ることは、話を長引かせて時間稼ぎをすること。
「私のことが嫌いと言ったわよね?何処が気に入らない?」
「全部よ!地位も容姿も権力も全部持っているのが許せないの!」
「貴方だって可愛らしい容姿と男爵という地位を持っているじゃない」
「バカね。私は特別な存在だから当たり前なのよ!」
先程から特別な存在と繰り返しているが、一体何処からその自信が湧いてくるのか。
それか...自分は特別な存在だと思いたいだけ?
「そろそろ聖女の魔力をぜーんぶ奪っちゃおうと。触れたら一時的には模倣できるんだけど、所詮偽物だし。でも奪っちゃえば、私はもう聖女!」