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第7話 洞窟の入り口と、仲間の誘い

 トルディアで冒険者として活動を始めてから二週間が過ぎた。レオンはFランクの地道なクエストをこなし、採取や小型モンスターの駆除を繰り返すことで、わずかずつだが実績を積み重ねている。おかげでギルドの職員にも「毎日堅実に仕事をこなす若手」としてそれなりに顔を覚えられ、報酬で装備を少し買い足す余裕まで生まれつつあった。


 しかし、そんな日々のなかでも“守護騎士”の存在――“未来の自分”を名乗る騎士の力には、やはりたびたび助けられている。コウモリやオオカミ程度なら、うまく立ち回ってソロ討伐ができても、思わぬ増援が現れた瞬間に危機を迎える場面が何度もあり、結局「最終手段」として騎士を呼ぶのが常になっていた。

 レオン自身、あまり依存しすぎるのはよくないと分かりながらも、何度か命の危機を救われてしまえば、その偉大な力の存在を否定できない。次第に「頼れるときには頼ろう」という割り切った考えも芽生え始める。


「でも、ずっとこのままじゃ成長が鈍るな……」


 ある朝、ギルドで依頼掲示板を見上げながら、レオンはそうぼやいた。周囲には複数の冒険者がクエストを吟味している。見渡すと、また“ひとりで依頼を探している”レオンの姿に首をかしげる者がいるが、最近はあまり気にしなくなった。

 先日まで“アデルの森のオオカミ退治”や“丘陵地帯の害獣駆除”など無難な下位依頼を手広く回してきたが、どれも小競り合いレベルで終わるため、いつかは“もう少し大きな依頼”を受けなければと思っている。しかしFランクひとりではリスクが高い案件ばかりで、結果として安全策に落ち着くループに陥っていた。


「次はどうしようかな……。Dランク程度の洞窟探索依頼、仲間がいれば参加できるんだけど……」


 掲示板の一角には、「フラル洞窟の探索と魔物排除」というクエスト票が目に留まった。新たに見つかった小規模な洞穴で、スライムやコウモリ系の魔物が巣食っているらしく、危険度はE~D相当。複数人推奨と書かれているため、ソロでは相応の覚悟が必要だ。

 暗所での戦闘は厄介だが、洞窟探索はレオンにとって興味深い。何より「まとまった報酬」が期待できる案件らしいからだ。ギルドカードの成績を伸ばすうえでも、少し冒険してみたい気持ちがある。


「とはいえ、さすがに洞窟でマルチエンカウントとかしたら……どうにもならないか……? “彼”を呼び出せば短時間なら切り抜けられるかもしれないが、ずっと暗闇での連戦は厳しいよな」


 眉をひそめて悩んでいると、「よう、レオン」と声をかけてくる人がいた。振り返るとロイド――以前、街道で盗賊に襲われていた商人の姿だ。彼は怪我もほぼ回復し、取引でこの町に滞在しているようだ。

 ロイドは「最近、よくクエストこなしてるらしいな。俺も荷物を運ぶ時に助っ人を探してたんだが」と笑い、レオンの様子を品定めするように見つめる。


「手伝いなら大歓迎ですけど、すみません、実は洞窟探索って依頼が気になっていて……。ロイドさんも関係あるんですか?」


「いや、俺は別件さ。実はこの“フラル洞窟”に興味があってな。噂じゃ魔石の原石とか宝石が採れるとかで、商人仲間が探掘を検討してるんだ。安全が確保されれば一大事業になるかもしれん」


 なるほど、商売のネタを探しているわけか、とレオンは納得する。フラル洞窟が開拓されれば、レイド要素や特殊鉱石の取引で町が盛り上がるだろう。そういう“発見の瞬間”に立ち会えるなら、冒険者の醍醐味を味わえそうだ。

 しかし、やはりリスクは高い。単独での洞窟探索は照明の確保や道中の魔物対応など、難度が一気に増す。雑魚モンスターでも闇に潜まれると手強いし、長時間の戦闘に備えて“守護騎士”を呼び続けるのは無理がある。


「ロイドさんが仲間になってくれればいいですけど……さすがに戦闘は無理ですよね?」


「勘弁してくれ。商売人だ、俺は。ちなみに、その洞窟のクエストはDランク以上推奨だったはず。いや、ソロFランクが行くならパーティに加わったほうがいい」


 ロイドは苦笑しながら、レオンに助言する。そう簡単にはソロ突破は難しいだろう――それはレオンも分かっているが、同時に「誰かと組むと“騎士”をどう説明するか」問題が付きまとっている。

 迷いつつ掲示板を再度見回すと、ちょうど同じ依頼を眺める二人組がいるのに気づいた。中年の男性戦士と若い女性魔術師らしく、装備を見るにEランクかDランク程度。視線を交わすと、向こうが「あれ、あなたも興味ある?」と話しかけてきた。


「私たちもフラル洞窟の探索依頼を狙っているんです。二人だと不安だから、あと一人か二人欲しくて……Fランクでもいいなら、一緒にどうですか?」


 思わぬお誘いに、レオンは躊躇した。先述の不安——他人とパーティを組んだら“守護騎士”の力がバレるかもしれない。しかし洞窟探索をソロで行くのは自殺行為に近い。ここで断れば、また別の小クエストを細々と回す日々が続くだろう。


「ええと……自分はFランクの召喚士で、戦闘は得意じゃないんですが、それでも良ければ……」


「召喚士? 珍しいな。でも、補助とか囮にもなるし、魔術師の私としてはありがたいわ。そっちの戦士も剣を振るうだけじゃ限界あるしね」


 中年戦士が「俺はグラウト、こっちは女性魔術師のマリス」と自己紹介してくる。話を聞けば、Eランクパーティを組んで活動しているが普段は4人で動くところ、1人が負傷し離脱してしまったため、急きょメンバーを探していたらしい。

 レオンがあまり気乗りしない表情をしていると、魔術師マリスが「大丈夫、大きな魔物に会う前に撤退する判断をするし、報酬は平等に分けます」と安心させようと微笑む。


「……分かりました。じゃあお願いします。僕はレオンっていいます」


 意を決して返答すると、ロイドが「ここでパーティ結成か、いいじゃないか。危険なときは引き返すってのは大事だぞ」と背中を押してくれた。

 こうしてあっさり初の“パーティ”が形成されることに。レオンとしては騎士の力を隠し通せるか不安があるが、洞窟探索を単独でやるのは無謀すぎる。それならば仲間と組んで安全を確保するほうが得策だ。



「じゃあ、集合は明日の朝、町の北門で。地図を見つつ行きましょう。洞窟までは馬車で半日程度みたいですね」


 マリスがまとめ役を担い、皆がうなずく。装備や食料、照明道具などは各自準備という形になり、そのまま解散。グラウトは「あまり無茶しなくていいぞ、俺たちはスライムや弱いゴブリンを狩るくらいのつもりだから」とレオンをいたわる。

 レオンも「ええ、無理しません」と答えつつ、複雑な思いを抱える。仲間たちがいるのは心強いが、“守護騎士”をどう扱うか——隠し通すことが不可能な場面もあるかもしれない。

 しかし、いまは踏み出すしかない。成長のチャンスを自ら閉ざしては、いつまでもFランク止まりになってしまうだろう。どうにかうまく立ち回り、他人に騎士のことを怪しまれずにクエストを成功させたい。



 その日の夕方、レオンは早速準備を整えるため、宿に戻って装備点検や携行食の補充を行った。洞窟には明かりが必須なので、ランタンと予備のオイル、松明もいくつか購入。ロープや留め具など、万一の脱出用具も揃える。

 こうした装備への出費は痛いが、それこそパーティクエストの報酬がしっかり出れば元を取れるはず。もしかすると大した魔物はおらず、あっさり探索が終わるかもしれないし、逆に危険が潜んでいる可能性もある。

 夜になり、宿の自室で装備を確認していると、ふいに腕の紋章がかすかに熱を持った。呼び出すつもりはないが、“彼”が小声で囁くのを感じる。


「明日、初めてパーティで洞窟探索なんだね。僕も気をつけるよ。過度に頼るのは禁物だけど、死なないようにして」


「うん……ありがとう。何とかうまくいけばいいんだけど、正直不安なんだ」


 レオンは声に出さず、頭の中で応じる。もし戦闘が激化すれば、守護騎士を呼ばざるを得なくなり、その姿を仲間に見られてしまうだろう。とはいえ、命の危機を迎えるよりはマシだ。とりあえず隠せるなら隠す、バレそうなら状況を選んで説明するか……最悪、それでパーティを解散する羽目になるかもしれない。

 考えても仕方ない、と自分に言い聞かせる。やらなきゃ始まらないし、守護騎士の力をすべて隠す必要もなく、あくまで「強力な召喚術を習得している」という形で誤魔化せなくはないかもしれない。

 いずれにせよ、明日の挑戦を前にモヤモヤしていては眠れない。レオンは深呼吸をして装備をまとめ、布団に潜り込む。ドキドキと期待と不安が入り混じるまま、静かな夜に意識を落としていった。



 翌朝。まだ薄明るい街並みを通り、北門の付近へ向かう。そこには既にマリスとグラウトが集まっており、馬車を一台手配していた。どうやら移動手段があったほうが楽だという判断で、二人が費用を出し合って借りたらしい。

 挨拶し合っていると、もう一人、町で声をかけたFランクらしき男性も加わって四人のパーティが形を成す。簡単に自己紹介を済ませ、いざ出発。フラル洞窟までは馬車でおよそ半日という話だ。

 揺れる馬車に揺られながら、マリスがクエストの詳細を確認する。「フラル洞窟の新規区域を探索し、巣食うモンスターを排除する」。Eランク以上に推奨されるが、Fランクが混じってもいいという条件。

 目的地までの道は緩やかな坂になっていて、森と丘陵が交互に現れる。遠くには山脈が霞んで見え、空気が少し冷たい。レオンは緊張を抑え、仲間と短い雑談を交わす。


「レオン君は召喚士って言ってたよね。どんなモンスター呼べるの?」


 マリスが興味津々に尋ねてくる。レオンは苦笑しつつ「まだ小動物や弱い精霊くらいしか……」とごまかした。守護騎士のことは言えないので、代わりに小精霊やスライムの類いを微妙に扱える程度、と説明する。

 彼女は「ふーん、精霊系を囮に使えるなら便利かも。洞窟は暗所だから、怪我させずに敵を引き出すのもありだね」と意外にも前向きに評価してくれた。どうやら魔法使いとして召喚術の理論には理解があるらしく、険しい眼差しは向けてこない。


(まぁ、気になればそれでいい。俺の本当の切り札は見せずに済めば助かるんだが……)



 そんな風に話すうち、目的地の山裾が見えてきた。フラル洞窟は最近になって冒険者が発見し、内部を少しずつ開拓中だという。現状まだ全貌が把握されておらず、何体かスライム系やゴブリンが出るという噂があるが、核心部分は未知の領域。場合によっては“中ボス級”の魔物が潜んでいる可能性もある。

 馬車を置く平地に到着し、御者に待機を頼んで四人は荷物を背負う。近くには他のパーティも数組おり、それぞれ洞窟の入口を目指していた。大きな共同クエストの様相を呈していて、戦闘音が響くかもしれないが、逆に危険があれば仲間同士で協力できる面もあるだろう。


「じゃ、行こうか。あまり奥地を目指さず、入口~中層あたりで経験を積む感じでいいよね」


 グラウトがリーダー役を務め、マリスとレオン、もう一人のFランク冒険者タロウ(仮)という編成で緩やかに洞窟へ向かう。足元には固い岩が露出し、そこかしこに小さな穴や水たまりがある。

 洞窟の入口は口径が大きく、天井から冷たい滴が落ちている。中へ入ると、暗くて視界が悪いので、ランタンや魔法の光源を使って先を照らす。レオンもランタンを手に持ち、警戒しながら慎重に進んだ。



 最初の10分ほどは小部屋のような空間と狭い通路が続き、敵の気配はない。時折、小さなコウモリが天井を飛び回るが、害はなさそうだ。石や鉱物の欠片が散らばり、ギルドの採掘班が喜びそうな地質が見え隠れしている。

 やがて通路が少し広がり、岩棚の陰でスライムがうごめいているのをマリスが発見した。ドロリとしたゼリー状の物体が3匹、まとわりつくように移動している。グラウトが前衛を買って出て、剣の一撃で一匹ずつ破壊していく。

 スライム程度なら苦労はない。レオンもタロウも、攻撃が通りやすい弱点を狙ってフォローし、あっという間に数匹を仕留めた。その残骸は廃棄物のようなもので、素材としての価値は低いが、クエスト上は小型魔物撃破の実績になる。


「順調だな。こんなペースなら奥も行けるか?」


 グラウトが頼もしげに振り返るが、マリスはすぐに「油断は禁物」と止める。洞窟最深部ではもっと強いモンスターがいるかもしれないし、異常な個体が潜んでいる可能性は拭えない。

 一同が同意して、慎重にさらに奥へ。レオンも短剣と小盾を構え、いつでも防御できる態勢だ。すると、ほどなく先のほうからガサガサと金属がぶつかるような音が聞こえてきた。


 (先行している別パーティが戦闘中か? それともモンスター同士の争い?)


 4人は目を交わし合い、足音を抑えながら進む。やがて薄暗い広間に出ると、そこには見知らぬ2人組の冒険者が倒れていた。装備は軽く、頭に怪我を負っているようで苦痛に呻いている。周囲にはゴブリンの死体が2匹転がっていて、生き残りの1匹が金属棍棒を振り回し威嚇していた。


「やばい! 助けるぞ!」


 グラウトが即座に飛び出し、ゴブリンに斬りかかる。突進で弾かれそうになるが、タロウが横から支援し、マリスが小さな火球を放って援護。レオンもランタンを置いて短剣を構えようとしたが、一瞬のうちに戦況が動き、あっさりゴブリンは撃破された。

 救助された冒険者2人はEランクらしく、洞窟探索中にゴブリン複数に囲まれたらしい。2匹は倒したが、最後の1匹が暴れて止めを刺せず、この場に倒れていた。


「助かった……。危うく死ぬとこだった……」


「怪我がひどいな。ポーションを……」


 マリスが治療用のポーションを与え、傷を洗ってやる。軽度の流血だが頭部を打っているため慎重に休ませる必要がある。どうにか歩けそうで、本人たちは「もう今日は撤退だ」と弱々しく微笑む。


「ゴブリンが3匹か。しかも人を襲う気満々で危険だな。こいつら、もしかするともっと奥に巣があるのかもしれん」


 グラウトがあたりを警戒しながら低く呟く。レオンも背筋が冷える思いだ。ゴブリンが複数で行動しているとすれば、この先にさらなる群れが潜む可能性がある。

 ただ、これ以上進むかどうかはパーティで相談して決めるべきだろう。救助した2人を安全地帯へ連れていくのが先かもしれない。そう思って意見を交わすと、タロウが「俺もそろそろ撤退がいい気がする。奴らの巣に突っ込んで全滅したくない」と言い、皆もうなずく。

 結局、入り口付近だけの探索で区切りをつける形になりそうだが、それでも“クエスト全体”としては必要な魔物撃破数を満たしているはずだ。無理に奥へ行って大怪我を負うより、ここで切り上げるのが賢明だろう。



 4人と負傷者2人で協力し合い、洞窟の入口まで引き返す。外に出ると、すでに昼を過ぎて強めの日差しが照りつけていた。グラウトの馬車まで戻り、負傷者を乗せて町まで連れ帰る流れになる。マリスやタロウも納得し、レオンとしても「守護騎士」を呼ばずに済んだ今回を少し誇りに思う。

 もっとも、まだゴブリンの巣が深部にあるかは不明で、討伐完了とは言い難いが、パーティ全体の力量を考えれば今日のところは十分。疲弊を増す前に撤収が最良だという判断だ。


「いや、助かったよ、レオン。思ったより冷静で動きも良かった」


 帰り道、グラウトがそんな言葉をかけてくる。結局レオンはたいして前衛はやらなかったが、ランタンを使って死角を照らしたり、シンプルな水属性の補助魔法(※サポート的に覚えていた一般技能)を駆使して足場を固めるなど、それなりに役立ったらしい。マリスも同意し、「召喚士なのに、けっこう柔軟に対応してくれて助かったわ」と微笑む。

 本人としては納得しきれない部分もあるものの、“守護騎士”という秘密を晒さずにパーティで機能できたのは大きな一歩だった。ソロのときほど決定的なチートの出番がなくても、仲間が協力すれば何とかなる事例を体験できたのだから。


(やはりパーティならピンチも分担できるし、俺も無駄に騎士を呼ばずに済む。これが普通の冒険者の形なのかも……)



 町へ戻り、クエスト完了の報告を行う。もとより洞窟全域の制圧を目的としたクエストではなく、“一定範囲を探索し、潜む魔物を排除する”という任意達成型なので、ゴブリン3体撃破と救助活動の事実で最低基準の報酬が出る。戦果は少ないが、レオンの取り分として銀貨3枚は確保できたし、パーティのみんなも概ね満足しているようだ。

 今回の成果を踏まえてグラウトたちは「もう少し装備を整えて再突入するか、別の依頼を探すか考える」と言い、レオンをパーティ継続に誘ってくれたが、「次は全域攻略になるし、もっと戦闘力が欲しい」とか、「専用の光魔法や罠が必要かもな」という話になり、すぐに結論は出なかった。


「まぁ、急がずにいいよ。俺は当面フラル洞窟は控えたいし、君もソロ仕事があるかもしれないし……必要になったらまた声をかけるから」


 そう言ってグラウトは笑って手を振る。マリスとタロウも同調して「そのときはよろしく」と軽く別れの挨拶をする。レオンも嬉しいような、ホッとするような複雑な気持ちで手を振り返した。

 今回のパーティ体験は悪くなかったが、やはり「守護騎士の秘密」は出す場面がなくて済んだにせよ、いつまた出番が来るか分からない。いつか本当に大きな戦闘で隠し通せず仲間に疑われるかもしれない——そんな不安が頭を過った。


「それでも、普通の冒険者としてやっていく経験は大事だ。守護騎士ばかりに頼らないで、仲間と連携して戦う方法を学べるなら、いずれ大きな試練にも対応できるはず……」


 自分にそう言い聞かせ、レオンはギルドロビーのベンチでしばし休憩する。腕の紋章は穏やかに静まり、騎士は姿を現す必要がなかった。心の中で薄く笑い、感謝の思いを抱く。

 パーティの戦い方にも慣れれば、いつかDランクに上がって、より難しい依頼に挑戦できるだろう。そして、いずれ遠い将来に控える「魔王との戦い」へと繋がっていく。今はまだそんな壮大な話は絵空事かもしれないが、確実に道が開けている感触がある。



 こうして、レオンの〈普通の冒険者〉としての第一歩は少しずつ形になり始めた。ソロで始めた頃とは違い、パーティと協調しながら仕事をこなせるかもしれないし、必要なら“守護騎士”を呼び出す選択肢も捨ててはいない。どちらにせよ、最弱職のままではもう終わらないと決めたのだ。

 その夜、宿の部屋でランタンを消したあと、レオンは寝床に横たわりながら静かに呟いた。


「結局、俺は仲間とやっていくべきなのか、一人でやるべきなのか。難しいけど……少なくとも選べる立場にはなってきたってことだろうな」


 応えるかのように腕の紋章が小さく熱を帯びる。まるで「どちらでも自分の道を進める」と励ましているかのように感じられ、レオンは安堵の息を吐く。

 明日はまた別のクエストを探すかもしれないし、彼らがフラル洞窟を再挑戦するなら参加してもいい。どんな形であれ、着実に経験を積むのが目下の目標だ——いつか本当に世界を揺るがす闘いが訪れると“未来のレオン”は語っていたが、それまでは小さな仕事を一つずつクリアして、自力を磨くしかない。


 町の夜が更け、やがて静寂に包まれる。最弱と呼ばれた召喚士は、パーティを組むか否かという新たな選択を抱えながら、それでも前向きに歩み続ける。時空を超えた力は背後に潜みつつも、彼の成長を温かく見守っているようだった。

読んでいただきありがとうございます。

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