41話 決戦、開始
「……貴様も勇者の一味……か!やはり、一筋縄ではいかぬなっ!」
更に身体を貫かんとするスルトの連続攻撃を紙一重で回避しながらトーサが叫ぶ。スルトを相手にしながらも自分はもちろん、オルリアとフウカへの警戒も怠っていない様子だ。
(三対一、と数の上なら圧倒的優位だが、今のスルトの戦い方だとそうもいかないな。近接戦闘同士での相性が悪すぎる)
出会ったばかりのオルリアとではそもそも連携を取ることは難しいし、剣よりももっと相手の懐に潜り込んで戦うフウカではトーサだけではなくスルトの攻撃のタイミングにも注意しなければならない。格下の相手ならともかく気を抜けば命を落とす相手に不用意に仕掛ければ互いを傷付けかねない。二人ともそれを理解しているからこそあえて見に回っているのがここからでも分かった。
(……『隠者の外套』で姿を消して仕掛けてもらうにはまだ早い。俺ならスルトの合間を縫って剣や魔法で連携を叩き込む事は可能だが……)
そう思い顔を上げて前を向けば、カーミがこちらを真っ直ぐ見据えている。
(……それはさせて貰えそうにはないな。とにかく、俺はこっちをどうにかしなけりゃならない)
三人がトーサと戦う間、少なくともカーミは自分が食い止める必要がある。そこまで考えていたところでカーミが口を開く。
「仲間を気にする余裕があるのか?なら、遠慮なく仕掛けさせて貰うとしよう」
静かにそう言ったと同時にカーミが自分に拳を放つ。魔族を己の体に大量に取り込んだだけあって、先程よりもはるかに早く一撃の一つ一つが致命傷に繋がる威力である事は容易に想像出来る。
(……さっきよりも早いし殺傷能力も高い。だが、仕切り直したおかげで気付いた事もある)
自我を持つ魔族を無理矢理取り込んだ弊害なのか、確かにカーミの威力は上がったもののその力をまだ完全にはコントロール出来ていないようだ。そのおかげで寸前での回避がどうにか可能になっていた。
(とはいえ……くらったらヤバいのは変わらないんだけど……なっ!)
心の中でそう叫びながら繰り出されたカーミの一撃を剣で弾き返す。自分の挙動を見てカーミが攻撃を止める。
「……何故だ?紛れもなく先程よりも強く早くなった私の一撃をこうも回避出来る?」
カーミが不思議そうな顔でこちらに尋ねてくる。三人の様子を横目で確認しつつ少しでも時間を稼ごうとその問いに答える。
「一発でも貰っちまうとヤバいから必死だっていう事に尽きるんだけどな。お前さんなら察しがつくんじゃないか?」
自分の答えにカーミが気付いたようでこちらを睨むように口を開く。
「……成る程。それもお前の『祝福』の仕業という訳か」
……分かってはいたが向こうの理解度が早く冷や汗が流れる。相手に知られたところでこちらに支障をきたす『祝福』ではなかった事に感謝する。
生死をかけた戦闘時にのみ発動し、己の身体能力を瞬間的に向上させる『祝福』『死中に活』。これが発動していなければ間違いなく自分の体は強化されたカーミに貫かれていただろう。
(……向こうがこちらの発動条件を満たす程の強化をしていたのが幸いしたな。とはいえ、これでまた一つ賭けの材料は増えたと思っていいな)
『死中に活』が発動したことによって、当然ながら攻撃力も大幅に増加した。これで確実にこの二体にダメージを与える事は可能になったと推察する。そう思っているとカーミが口を開く。
「だが、これでお前の手の内はほぼ明らかになったはずだ。武器本来の持つ強度や切れ味を高め、拮抗する相手と相対した際に能力を強化する。お前自身の才と鍛錬にかみ合った『祝福』を保持しているとはいえ、それでも今の私ならば耐久戦に持ち込めばいずれお前の体力の限界を迎える。我々はただそれを待てば良い。気力も体力も我々魔族はお前たち人間とは比較にならないからな」
そう言ってカーミが再び構える。いくら自分の身体能力が向上したところで、人間である以上体力や持久力がいつまでも維持出来るものではないと思った故の発言だと言うことは容易に想像出来る。
(そう思ってくれるなら大歓迎だ。今は少しでもこちらを軽んじて貰った方が助かるからな)
万一にも表情から気取られる事がないように剣を眼前に構えてカーミを睨みつける。カーミは魔族の中でも聡明だ。魔王とまではいかなくともかつて相対した魔族の中で五本の指に入るほどに。
(……だからこそ、自身の強化によって起きているほんの僅かな慢心。そこにつけ込む)
己に起きた副作用とこちらの身体能力向上を踏まえてもまだ自分の方が上。そうカーミが思っている今がチャンスなのだ。
「……何を企んでいるかは分からぬが、そろそろ終わらせて貰う。あまり時間は無いのでな」
そう言ってカーミがこちらに構える。……剣を構えて目を閉じ意識を集中させる。視界が塞がったことで離れた場所にいるトーサの声が僅かに聞こえる。
「何をしようと無駄だ。お前たちの強さは認めるが既にほぼ手の内は出し尽くしただろう。既に我々の前でいくつもの『祝福』を発動させた。いかな優秀な人間といえども、せいぜい二つ、よくて三つ修得するのが人の限界のはずだ。確かに先程より早く強くなったようだが、それでも今のカーミには及ばん」
意識をより集中させる。カーミの気配を探っているとスルトの声が聞こえる。
「お前たちこそ、過去に出会った魔族の中では魔王を除けばトップクラスの強さと知能だな。……だからこそお前たちに教えてやろう」
スルトの声を耳にしながら剣を握る手に力を込める。……まだだ。まだ早い。カーミの腕に力が集中しているのが分かる。もう少しだ。更にスルトの言葉は続く。
「アイルが何故勇者と呼ばれたか分かるか?あいつの素晴らしさをここで一から語るには時間が足りないから簡潔に言おう。お前たちの常識であいつを計らない方が良い」
……何やら余計なことを言い始めたようだ。無視して意識をカーミに向ける。
カーミが腕を掲げた。
カーミの拳に力が込められた。
カーミの腕から拳の先に『祝福』が発動した。
(……よし。動きの流れは掴んだ。あとは仕掛けるタイミングを合わせるだけだ)
間違えれば一瞬で死が待ち構えている状態で、頭の中はクリアに冴え渡っていく。今まさに攻撃を放たんとするカーミの気配とスルトの言葉が同時に伝わる。
「お前の言う通り、確かに俺たち人間は限られた数以上に『祝福』を複数所持する事は出来ない。だが、あいつは違う。アイルはその枠からはみ出すどころか反対側に突き抜けた規格外の存在だ」
カーミがこちらに攻撃を仕掛けたのが伝わる。自分の意思よりも先に手にした剣が動く。
「……『自動反撃』」
次の瞬間、カーミの右手首を切り落とした感触が剣先から伝わる。それと同時にスルトの言葉が続く。
「人間でありながら無制限に『祝福』を取得する者。それが勇者……アイル=ラグドールだ」
斬り落としたカーミの手首が地面に落ちると同時、スルトの言葉が周囲に響いた。




