39話 トーサ、そしてカーミ再登場す
「ギギ……ッ!!」
親玉まではいかなくともこの群れの中での立ち位置が上位であろう魔族があっさりとスルトの一撃によって始末された事により魔族たちの間に動揺が走る。その隙を逃さず即座に魔族の群れに戦闘を仕掛ける。オルリアたちもそれを察してそれぞれ魔族に向かう。
「はあああっ!!」
フウカの一撃が一体の魔族の頭を吹き飛ばす。残された胴体が衝撃で後ろの魔族に吹き飛び数台の魔族の勢いが止まる。
「遅いわねっ!」
動きが止まった魔族にすかさずオルリアが斬りかかり二体同時に魔族を斬り伏せる。その横では既にスルトが別の魔族を仕留めていた。
「ふん。見たところ大した使い手はいないようだな。先程俺が仕留めた奴がまだ一番マシだったレベルのようだ。時間稼ぎか?……何にせよ、全て仕留めれば問題ないな」
そう言いながらまた一体の魔族を仕留め、既に次の魔族に狙いを定めているスルト。それを横目に自分も魔族を一体剣で切り伏せる。
(……スルトの言う通り、見た感じでこちらが警戒するレベルの魔族は見当たらない。連戦の疲れは確かにあるがこの程度ならさほど時間をかけずに殲滅出来そうだな)
そう思いつつも更に一体自分に襲いかかってきた魔族の首を斬り飛ばす。この奥で確実に控えているカーミとトーサ、そして手負いとはいえ控えている女王の事を考えると出来る限り魔力と体力は温存しておきたいと思い、最小限の動きを意識する。
「ふっ!」
更に一体魔族を仕留めながらオルリアたちの様子を確認する。皆自分と同じ様に襲いかかる魔族たちを難なく片付けている。
(それにしても妙だな。あいつら程の強さならこの程度の魔族じゃ俺たちの相手にならない事ぐらい分かっているはずだ。……何のためにこんな事をしている?)
何か考えがあっての事だろうとは思うものの、それが何かは分からない。ひとまずは目の前の魔族の始末に専念する事にした。程なくしてそこにいた魔族の群れを殲滅する事に成功した。
「……何だったの?てっきり総攻撃かと思って身構えていたのにあいつらの影も形もないじゃないの」
肩透かしをくらったと言わんばかりに呆れ顔でオルリアが言うとフウカもそれに続く。
「うむ。他に考えられる事としては我々の知らない逃走経路があり、こいつらを囮にしてその間に女王と共に逃亡する……といったところか」
そのフウカの発言を即座にスルトが否定するように口を開く。
「いや。その可能性はおそらくない。俺が知る限りこの鉱山はこの先はほぼ一本道だ。細かい脇道程度の穴はあるかもしれないが、少なくとも地上に出られるような道はないはずだ」
スルトがそこまで言ったその時、オルリアが突然真剣な表情で自分たちに向かって言う。
「……待って。この先の奥からさっき感じた強い気配が二つ近付いて来てる。一つはさっきのトーサって奴で間違いないけど、もう一体……カーミの気配が何か、さっきまでの気配とは違う。何て言うかこう……おかしいの。上手く言えないけど、あいつのようであいつじゃない……みたいな」
オルリアがそう言ったとほぼ同時、背筋にぞくりと冷たい気配が走る。かつて対峙した魔王やその直属クラスの忌まわしい程の強烈な殺気を感じる。
(……何だ!?これほどの禍々しい気配は数える程しか感じた事がない!魔王とまではいかなくとも……その側近レベルに近い!)
そう思っていると、鉱山の奥の暗がりからこちらに向かってくる影が見える。やがて自分たちの前にトーサが姿を現す。
「……やはり、こやつら程度では足止めにもならんか。まぁ、それも仕方ない事か」
姿を現し開口一番、トーサが地面に転がる魔族の死体を一瞥してつぶやく。
「本当に俺たちを足止めしたいと思うのならばもう少しまともな強さの魔族を配置しておくべきだったな。まぁ、それが出来ずにこうなったのだろうが」
スルトが片手で剣をトーサに向けながら言う。言葉を発しながらもう片方の手で『隠者の外套』をいつでも纏えるように備えている。だが、スルトのその言葉にトーサが冷静に口元を少しだけ歪めて次の言葉を放つ。
「あぁ。勿論そうしようと思えば出来た。単なる時間稼ぎや足止めならば、な。だがお前たちの戦力を多少消耗させる程度では何の意味もない。先程の手合わせでお前たちの実力はある程度把握したからな。こいつら程度でお前たちをどうにか出来るなどとは最初から思っていないさ」
そう言いながら自分たちを改めて一瞥し、トーサが自分を指差し言葉を続ける。
「特にお前……アイルと言ったな。お前の強さはきっと女王にも届きうる。万全の状態の女王ならばともかく、今の女王ではな。……なら、確実にここでお前を仕留めるべくこちらもその準備をする必要があったのだ」
そう言って会話を止めて目を伏せるトーサ。……おかしい。トーサの言葉が事実ならば自分たちを仕留めるべく準備を整えたという事だ。それなのにトーサの様子からは得意げな様子は微塵もなく、逆にどこか悲壮感すら感じる。それを不思議に思い思わず口を開く。
「……準備、だと?それはいったい……」
自分がそこまで言った時、奥から声が響く。
「……それは、私から説明しよう」
その声と同時、奥からもう一体魔族がゆっくりと姿を現す。聞き覚えのある声だったが、その姿に思わず全員が絶句する。
「……お前……カーミか?だが、その姿は……」
声の主は確かにカーミであった。
……だが、その風貌は先程戦った時とは似ても似つかぬ姿であった。




