27話 魔族の群れと遭遇、戦闘開始
「おいでなすったな。二人とも気を付けろよ」
そう言いながら自分も杖を地面に突き立て剣を構える。戦闘が始まる前に周囲の状況を確認する。
(幸い、壁にランプがあるから杖を倒されても暗闇になる事は避けられる。ここで戦うなら周囲は採掘箇所のため広くなっているから三人で戦うだけのスペースは確保されているな)
最悪、状況が悪化すれば一旦後ろに撤退して通路で待ち構える形で戦う形に切り替える事も出来る。複数人で戦うには好条件が揃っていた。
「……来たな。アイル、オルリア。油断するなよ」
フウカが鉄爪を装着しながら言う。自分とオルリアが頷く。程なくして魔族たちが自分の目の前に姿を現した。
「……サレ……タチサレ……」
片言程度ではあるが人語を口にする魔族。この時点で先程までの魔族より高位である事が分かる。
「悪いな。それは出来ない。お前たちにここに居座られると街の皆が困るんでな」
そう言って剣を構える。それを答えと理解したのか言葉を発した魔族が後ろの魔族に何やら合図を送り再びこちらへ向かって叫んだ。
「ナラバ……コロス……!」
叫ぶと同時に魔族たちが一斉に飛び掛ってきた。
「ふっ!」
こちらに襲いかかってきた魔族の手を一閃で斬り飛ばす。それを見た魔族が動揺している間にその魔族の首を続けて刎ねる。
「成程ね。確かにそんな風に軽快に動いて戦えるならその剣の方が今回みたいな時は有効ね。勉強になるわ」
そう言いつつ自分の方へ向かってきた魔族を真っ二つに切り裂きながらオルリアが言う。
「『勇者』の名は伊達じゃないって事だ。ここまで様々な剣や魔法を自在に操れるのは世界広しと言えどもアイルぐらいだろう」
同じく物理に耐性がある魔族の頭部をそれを上回る圧倒的な破壊力で打ち砕いたフウカが言う。あまり持ち上げられるのも気恥ずかしいのだが。
「どうかな。世界は広いし俺より凄い奴なんてごまんといると思うけど……なっ!」
そんな風に返しながらも自分に襲いかかってきた魔族の首を斬り飛ばす。
「…………!」
瞬く間に仲間を数体仕留められたのを目の当たりにし、魔族の群れに動揺が走ったようで狼狽えている。もちろん、その隙を逃すはずがない。
「はあっ!」
手前にいた魔族の二体同時に斬り伏せる。『対魔光』の魔力が込められた剣の威力は絶大で魔族の身体を軽々と上下に分断する。
「『流星撃』っ!」
隣のフウカが技を放ち衝撃波で魔族の身体を打ち砕く。そのすぐ近くではオルリアが魔族を一刀のもとに斬り伏せていた。
(……流石オルリアだな。人間の俺じゃとてもあれだけの長時間あの魔剣は使いこなせない。フウカの打撃もこのレベルの魔族なら余裕で通用しているし、これなら大丈夫だな)
そう思っていると、奥から二体の魔族が他の魔族を抑えてこちらに近付いてきた。一体は自分たちと同じ程の背丈の魔族、もう一体はかなり大型の魔族だ。
「強いな。お前たち、他の人間とは違うようだ。……うん?そっちのお前は見た目は人間だが我々と同じ匂いが……成程、『半端者』か」
魔族の言葉にオルリアがやや怒りを含んだ口調で言葉を返す。
「……好きに言ってなさいよ。その半端者にあんたらはこれから殺されるんだからね」
今にも斬りかかりそうな勢いのオルリアを手で制し、魔族に声をかける。
「どうやら、完璧に人語を理解し話せるみたいだな。……お前たちの目的はなんだ?何故この鉱山に住み着いた?」
自分の問いにもう一体の魔族が答える。
「話す必要はない。これから我々に殺される人間に対して言葉を放つ必要など何一つない」
そう言って魔族がこちらに向かって明確な殺意を放つ。後ろのオルリアとフウカが瞬時に身構える。
「……あんたらが、この鉱山に巣食う魔族の親玉か?」
自分も剣を構えながら魔族に尋ねる。雰囲気から伝わる気配からかなり高位の魔族である事は分かった。
(……流石に魔王護衛軍クラスとはいかないが、魔王城にいたレベル以上の魔族と思っていた方が良いな。街にこいつらが直接危害を加えていなくて良かった)
そう思っていると再び魔族が口を開く。
「話す必要は無いと言った筈だ。我らが長は大事な時。故に、速やかにお前たちを排除する」
大事な時、と漏らした魔族の言葉が引っかかる。こいつらを従える魔族の親玉に何かが起こり、この鉱山を占拠したと推察する。
「……そうかい。だがこちらもみすみすそれに従うつもりはないんでね。悪いが一体残さず倒させて貰うぜ」
自分の言葉に大型の魔族が激昂しながら叫ぶ。
「人間風情が生意気に!死ねいっ!」
予想より速い速度で魔族がこちらに迫り爪を振り下ろす。咄嗟に剣を構えてその一撃を弾く。
(……速いっ!今までの雑魚とはレベルが違う!)
予想外の一撃に戸惑うものの、それは向こうも同様だったと見えこちらに語りかける。
「……ほう。今の一撃を難なく受け止めるか。確かに、他の人間とは違うようだな」
弾かれた己の爪を見てこちらに魔族が言う。
(……叩き折るつもりで爪を弾いたが、せいぜい傷が付いた程度か。こりゃ、久しぶりに本気で戦う必要がありそうだな)
相手が一度距離を置いた事によって余裕が出来たため、後ろのオルリアとフウカに声をかける。
「気をつけろ。……この二体、今までの奴らとは次元が違うぞ」
言葉を発さずとも背後から二人が構えるのを気配で感じたため、自分も剣をしっかりと握り直した。




