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24話 アイル一同、いざ鉱山へ

「どう思うアイル?鉱山から動く気配のなかった魔族が急に街に近付く理由に何か思い当たる事はあるか?」


 鉱山に向かう道すがら、フウカが自分に尋ねてくる。


「……いや。検討もつかないな。ただ、鉱山の方で何かあった可能性が高いのは間違いない。向こうの親玉に何かあったのかもな。とりあえず鉱山付近にいる連中も心配だし、まずはそこまで急いで向かおうぜ」


 そう言って鉱山へと向かう道を真っ直ぐ向かう。少し歩いたところでオルリアが自分に声をかけてくる。


「……嫌な予感がするわ。アイル、覚悟しておいた方がいいわよ」


 オルリアが顔をしかめながら言う。少し歩みを進めているうちに自分もオルリアの言葉の意味に気付く。鉱山に近づく度に血の臭いが濃くなってきた。それも魔族や魔獣ではなく、人間の血の臭いが。


(……考えたくはないが、最悪前線にいた面子が全滅という事も考えられるな。生存者がいれば一人でも多く助けたい)


 そう思い急ぎ足で先に向かうと程なく、地面に倒れている人間たちの姿を発見した。


「おいっ!大丈夫か!おいっ!返事をしろっ!」


 倒れている男に声をかけるものの、返事がない。どうやら既に事切れているようだ。


「アイルっ!この人まだ生きているわ!手当てを!」


 オルリアがこちらに向かって叫ぶ。同じく他に倒れている男を抱えてフウカも叫ぶ。


「こっちの男もまだ息がある!アイル!回復薬を出してくれっ!」


 そこからすぐに三人で手分けして、生存者の救護と治療に取り掛かった。


「……大丈夫か?悪いが、落ち着いただろうし話を聞かせて貰えるか?」


 生存者の手当てを済ませ、亡くなった者たちを弔うために一箇所に集めてようやく落ち着いたところで生存者の一人に声をかける。手当ての最中は動揺して暴れていたものの、今は落ち着いたようでこちらに顔を上げて口を開く。


「……あぁ。助けて貰った上に殺された仲間を集めて貰う作業まで任せちまったな。本当に申し訳ない」


 そう言って手渡した水を一口飲み、男が話を続ける。


「……とはいえ、俺たちも何が何だか分からないんだよ。今までこの辺りをうろついていた魔族が突然好戦的になってな。俺たちを襲いつつ大半が鉱山の奥へ向かい出したんだ。抵抗はしたものの、俺たちをついでのように襲ってほとんどは真っ直ぐ鉱山の方へ向かって行った。分かるのはそれくらいだよ」


 先程の連中たちと同じような内容を話す男の様子を見て、やはり魔族の親玉に何かがあった事を確信する。助けられなかった連中を『賢人の皮袋』から取り出した荷車に一人一人丁寧に乗せその上に布をかけ、生き残った者たちに声をかける。


「俺たちがここまで来た方角から街に戻れば魔族の襲撃は避けられるはずだ。仲間を運びながらでも安全に帰れると思う。ここより近場で襲われた連中が既に戻っていると思うから、すぐにお前さんたちの状況も伝えてくれ。それと、その際にくれぐれも下手に大勢で鉱山に向かわないように街の連中に伝えてくれ」


 そう自分が言うと男が尋ねてくる。


「そうか……向こうのエリアにも奴らが出たのか。……あっちにも犠牲者は出たのか?」


 男の問いに手を振りながら答える。


「いや、向こうは襲われてすぐに俺たちがたまたま駆け付けられたから全員無事だよ。もう少し遅かったらヤバかっただろうけどな」


 自分の言葉に男が幾分ほっとした表情を浮かべる。他の連中も同様の反応をしている。体力も回復しているようなので自分たちだけで街に戻れると判断して男に声をかける。


「よし、じゃあ俺たちはこのまま鉱山に向かう。あんたらはすぐに街に戻ってくれ」


 そう自分が言うと、男が困惑した様子で叫ぶ。


「……あんたら、まさかこの状況で鉱山に向かうつもりかい!?無茶だ!俺たちですらまともに戦えなかった連中がうじゃうじゃいるんだぞ!?それをたった三人で向かうなんて!」


 自分の身分を明かそうかと一瞬思うものの、すぐにこの場で信じて貰える根拠がないため黙っておく事にした。


「大丈夫だよ。悪いがあんたらよりも死線は潜っているからな。それに、今鉱山から魔族が出て来たらあんたらも街の連中もヤバいだろ?助けられなかった仲間たちもちゃんと弔ってやりたいだろうし、少なくともあんたらが街に戻るまでここに誰かが魔族の動向を見張りつつ足止め要員として残る必要がある。違うか?」


 自分の言葉に男がぐっ、と言葉を飲み込む。そのまま勢いで言葉を続ける。


「分かってくれたかい?……心配しないでくれ。あんたらが街に戻るまでの間は必ずここで奴等を食い止めておくよ。もし増援をここに向かわせるっていうなら実力が確かな連中だけを呼ぶように伝えてくれ」


 そう男に伝えると、渋々ながらも男が了承した。他の連中に声をかけ、亡くなった連中が乗った荷車に手をかけながら声をかけてくる。


「分かった。お前の言う通りだ。……だがくれぐれも無茶をするなよ。腕利きの連中だけを向かわせるように手筈を整えるからな」


 男の言葉に頷き、荷車を引いて街に向かう連中を見送る。連中の姿が遠くなったところでオルリアが声をかけてくる。


「で、どうするのアイル?まさか馬鹿正直に増援を待つなんて事はしないわよね?」


 オルリアの言葉に頷きながら答える。


「もちろんだ。悪いが鉱山付近にいた連中が手も足も出ないレベルなら手練れと呼ばれる面子も期待出来ないだろう。このまま俺たち三人で向かう方が得策だ。邪魔が入らないうちに鉱山に向かおう」


 そう二人に伝え、鉱山へ足を踏み入れた。最低限の灯りはあるものの、この暗さで奥に進むのは難しい。


「……思ったより暗いな。二人とも少し待ってくれ」


『賢人の皮袋』の中から一本の杖を取り出す。杖を手に持ちつぶやく。


「『光よ。汝の力で道を照らせ』」


 次の瞬間、杖の先から光が放たれかなり先の方まで視界が開ける。オルリアが自分に声をかけてくる。


「あら、凄いわねその杖。これがあればランプや松明要らずじゃないの」


 自分が先頭に立ち、ゆっくり歩き出しながらオルリアに答える。


「あぁ。こいつが手に入ってからは本当ダンジョンの探索が楽になったよ。松明では遠くまで照らせないし、魔法は遠くまで照らせる代わりに持続時間が短い。それがこの杖一本で解決してくれたからな。今も手放せない道具の一つだな」


 そんな事を言いながら鉱山の奥に向かって歩いていく。入って早々に魔族の襲撃も覚悟していたのだが、今のところその気配は無かった。


(……妙だな。街を出てすぐの連中、そして鉱山の近くの連中。立て続けに襲われた数を考えると魔族の数は決して少なくないはずだ。にも関わらずまだ魔族の気配が感じられない)


 ……ここから先は、かなり警戒して進む必要がある。そう思った瞬間、オルリアが自分に声をかけてきた。


「待ってアイル。……この先に魔族の気配がするわ。それもかなりの数。フウカも注意して」


 オルリアの言葉に頷き、杖を掲げる反対の手で剣を構えた。


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