23話 アイル一同、鉱山へ向かう
「……くれぐれも気をつけてくれよな。あんたらが出たと同時に門はすぐ閉めさせてもらうし、場合によっちゃ簡単に門を開けられないからな」
クレフに会いに行っている間に既に話が通っていたらしく、門番の男が自分たちに言う。
「大丈夫だよ。万が一にもここから魔族を街に入られる訳にはいかないのは分かっているからな。俺たちが出たらすぐに閉めてもらって構わないよ」
そう男に返して裏門から街の外に出る。すると男が言葉通り開かれた門を即座に閉める。
「さて、じゃあ早速鉱山の方に向かうか。ここからそう遠くないだろうし、他に魔族と戦っている連中の安否も気になるからな」
門が完全に閉まったのを確認してから二人に声をかけ、真っ直ぐ鉱山の方へ向かおうと少し歩き出したその時だった。
「……ねぇ、何か聞こえない?向かって右側の方向。何か、人の叫び声みたいな……」
オルリアが不意につぶやく。自分には聞こえないため、フウカの方を見るがフウカも首を横に振る。
「……俺たちに聞こえないだけかもしれない。オルリア、声の方に案内してくれ」
オルリアが頷き、声が聞こえるという方向へ向かう。十分ほど歩いただろうか。ここでようやく自分にも確かに人の叫び声が聞こえた。
「……行くぞっ!」
叫ぶと同時に声の方へと駆け出す。自分の横を走るフウカが口を開く。
「魔族……いや、オルリアの聴覚は侮れないな。ここまで全く私には聴こえなかった」
全力で走りながらフウカに答える。
「俺もだよ。オルリアがいなけりゃこの声には気付かず鉱山に向かっていただろうな」
走りながら声の元へと確実に近づいていく。どうやら声の主が何者かに襲われているようだ。叫び声がはっきりと聴こえてくる。
「誰か……!誰かいないか!助けてくれっ!」
少し開けた場所で数体の魔族に襲われている男達の姿があった。近くには血を流し倒れている者もいる。即座に剣を抜き、声を上げた男の元へと駆け出した。
(……声を上げる余裕があるからこの男はまだ大丈夫だ。問題は横で倒れている連中だ。早く治療しないとまずい。まずはここにいる魔族を……一匹残さず仕留めるっ!)
叫んだ男に今まさに牙を突き立てようとした魔族の首を瞬時に刎ねる。それとほぼ同時に近くにいた他の魔族をオルリアとフウカがそれぞれ仕留めていた。
「アイル!怪我人の手当てを頼む!残りの魔族は私とオルリアで片付けるっ!」
そう言いながら拳で別の魔族の頭部を砕きながらフウカが叫ぶ。隣ではオルリアが魔族を真っ二つに切り裂いている。
「了解だ!悪いが残りはお前ら二人に任せたぞっ!」
地面に倒れている者たちの中で一番深手を負い倒れている男の元へ駆け寄る。傷や出血は酷いものの呼吸は安定している。回復呪文を唱えるより早いと判断し、即座に『賢人の皮袋』から小瓶を取り出す。
「大丈夫か!?すぐに治すから動くな!」
息も絶え絶えな傷だらけの男に小瓶に入っていた『治癒の滴』を振りかける。店で手に入るような通常の回復薬とは違い、瞬時に傷や痛みを取り除く希少な回復アイテムである。
「うぅっ……」
男の体から瞬時に傷が癒えていく。それを確認して男を地面にゆっくり横たわらせて声をかける。
「……よし。そのまま横になっていてくれ。あとで詳しい話を聞かせて貰うからな」
気が付けばオルリアとフウカの手によって魔族は残り一体となっていた。その一体が逃走しようと自分の横をすり抜け逃げ出そうと駆け出してきた。
「悪いが、逃がさねぇよ」
剣を抜き、自分の脇をすり抜けようとした魔族の首を胴体から切り離した。
「助かったよ。……強ぇな、あんたら」
魔族を全て仕留めた後全員の傷を治療し、周囲に魔族の気配がない事を確認してようやく男たちから詳しい話を聞く事となった。
「詳しく聞かせてくれるか?あいつらの親玉は基本鉱山近くの奥に引っ込んでいると聞いていた。だがあんたらは鉱山から大分離れたこの場所で襲われていた。何かあったのか?」
そう尋ねると男たちの中の一人が口を開く。
「……俺たちも分からないんだよ。基本、この辺りまであんなに大量に強い魔族が来る事なんて今までなかった。街に近付く可能性がありそうな下位魔族を追い払うっていうのが俺たちグループの役割だからな。鉱山付近の迎撃を任された面子ならともかく、俺たちじゃあんたらが来てくれなかったら今頃全員お陀仏だっただろうな」
改めて生を実感したらしく、心から安堵するような表情で男が言う。
「つまり、今までこんな事はなかったという事だな?少なくともあんたらの手に負えないレベルの魔族がここまで来るっていう事態は」
自分の問いに男たちが一同に頷く。鉱山付近に巣食う魔族に何か動きがあったのだと推察する。
「分かった。……あんたらはひとまず街に戻ってその事を皆に伝えてくれ。幸い、俺たちが門を出てここに向かう間に魔族の気配はなかった。今ならすぐに門を開けて貰って街の中に戻れるだろう。俺たちはこのまま鉱山に向かってみるよ」
そう告げると連中の一人が自分に声をかけてくる。
「……すまないな。悪いがそうさせて貰うよ。あんたらに命を救われたことはしっかり上に報告しておくからな」
男の口ぶりから街の監視役の一人なのだろう。だがそんな事は自分たちにはどうでも良かった。
「それは好きにしてくれて構わない。とにかく、俺たちは鉱山にすぐ向かうよ」
そう男たちに告げ、ここから鉱山への最短距離を聞いて向かう事にした。




