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22話 アイル、出発前に下準備を済ませる

「じゃあ、あんたらの準備が出来たら街の裏門から鉱山に向かってくれ。今日これからでも明日以降でも構わねぇ。あんたらの事はこの後すぐ門番には伝えておくからな」


 別れ際に男にそう言われ、一礼して建物を出て街の中心部へと向かう。少し歩いたところでオルリアが自分に声をかけてくる。


「で、どうするのアイル?すぐに鉱山へ向かう?」


 オルリアの問いに歩きながら答える。


「いや、その前に少し街で買い物をしておいた方が良いだろう。野営する可能性も充分にあるし、そうなった時のために食糧や水、薬とかを買っておくに越した事はないからな。お前だってその間飲まず食わずになるのは嫌だろ?それと、少し目的地に向かう前に寄りたい所があるからな」


 そうオルリアに言うと、即座にオルリアが口を開く。


「そうね……それは良くないわね。緊急時に備えて食糧の備蓄は大事よね。えぇと、干し肉に乾燥果実、小麦パン……それと魚の干物辺りは買い揃えておく必要があるわね」


 そんなオルリアを呆れ顔で見ながらフウカも口を開く。


「……オルリアの場合は備蓄にならない気がしてならないのだが気のせいか?だが、戦いの前に支度を整えるという点に関しては賛成だ。だがアイル。お前のその口ぶりから察するに、ただの買出しという訳ではないだろう?」


 フウカの言葉に頷きながら答える。


「あぁ。先に例のハンマーを託すに相応しいと思う奴に会ってから鉱山に向かおうと思ってな」


 そう言って真っ直ぐ目的地へと向かう。やがて一件の鍛冶屋へと到着した。素材となる金属や鉱石が魔族のせいで手に入らないためほとんどの鍛冶屋が火を落としている中、この店は小さいながらも煙が上がっている。入り口の引き戸を引くとがらがらと音を立てて扉が開く。


「……誰だい?悪いがしばらく店仕舞いだ。何かあるなら他をあたって……」


 引き戸を引くと同時に、煤まみれでよれよれの服を着た無精ひげではあるが精悍な顔つきの中年の男性が店の奥から顔を出す。すぐに男に声をかけた。


「よう。久しぶりだなクレフ。元気そうで何よりだよ」


 自分の声に男が首にぶら下げた鎖付きの眼鏡を顔にかけ、自分の顔をまじまじと眺めてから大きな声で叫ぶ。


「……おぉ!誰かと思えば勇者の兄ちゃんか!久しぶりだなぁ!おや?そちらの嬢ちゃんは見覚えがあるが、そっちの嬢ちゃんは初めて見る顔だねぇ」


 そう言って後ろの二人を見る。二人の方を振り返りながら男に声をかける。


「あぁ。こいつはオルリアって言うんだ。んでオルリア、この人はクレフ。あのハンマーを託すに相応しい鍛治師って訳さ」


 そう言って初対面の二人を互いに紹介した。



「へぇ……こいつにそんな効果がねぇ……見た感じじゃちょっと豪華な装飾がされたハンマーにしか見えねぇがなぁ」


 軽く近況報告と事情を説明した後、渡したハンマーをしげしげと眺めながらクレフが言う。ハンマーの効力を話しても半信半疑といった様子である。


「まぁ、論より証拠って奴さ。外から煙が見えたって事は炉の火は落としていないだろ?何か試しにそいつで打ってみてくれよ」


 そうクレフに言うと、クレフがハンマーを持って立ち上がる。


「おう。こんな状態で商売あがったりなもんだから、前に手に入れた珍しい金属を打ってみようかと思っていたところだから丁度いいよ」


 そう言ってクレフが炉に向かい、熱していた金属の塊を炉の中から道具を使って取り出す。


「危ないから少し離れていてくれよ。……じゃ、ちょっとこいつを試させて貰うぜ」


 そう言って真っ赤になった鉱石を片手で固定し、もう一方の手でハンマーを握る。


「こいつで叩くと同時に衝撃を与えるって言ってたよな?なら、最初はこのくらいで……っと」


 そう言ってその道を極めた職人にしか分からないであろう絶妙な角度と力加減で熱せられた金属をハンマーで叩く。見守る自分たちにはかすかに叩いた瞬間金属が僅かに振動したようにしか見えないが、叩いたクレフがこちらを驚愕の表情を見せて言う。


「……おい!何だよこれ。いつもの道具じゃ何回打ってもビクともしなかったこいつがいきなり普通の金属や鉱石みたいになったぞ!?これ、相当やばい道具なんじゃねぇのか?」


 信じられないといった様子でクレフが目の前の金属を見つめる。やはり彼にこの道具を授ける事にして正解だと改めて思った。


「うん。やっぱりあんたにそいつを使って貰おうと思ったのは正解だったみたいだな。俺たちじゃそいつを満足に使いこなせないと思うし、そいつを仕事に役立ててくれよ」


 そうクレフに言うと、またハンマーと自分を交互に見ながら口を開く。


「いや……その申し出は本当にありがたいんだが……本当に良いのか?悪いが、これに見合うようなお返しなんて俺には出来ねぇぞ?」


 そう言いつつも既にハンマーをしっかりと握るクレフを見て少し笑いながら答える。


「構わないさ。二人にも言ったがそいつも魔族や地面を叩くよりあんたに使って貰った方が嬉しいと思うからな。せいぜいそいつを有効活用してくれよ」


 そう自分が言うとクレフが自分に言葉を返す。


「……分かった。ならありがたくこいつは使わせて貰う事にするよ。あと、街の一件が片付いたら必ずまた店に顔を出してくれよな。約束だぞ?」


 クレフの言葉に頷き、鍛冶屋を後にして早々に食料や道具を補充して裏門へと向かった。


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