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20話 アイル一同、ライアの街に到着する

「そろそろ到着ね。街に着いたらまず食事にしたいわ。ねぇアイル、街の美味しい名物や名産品は何?甘い物もあると嬉しいんだけど」


 船上から港が見え、テンションが上がったオルリアが自分に声をかけてくる。それを聞き呆れた様子でフウカが言う。


「オルリアお前……船着場に向かう途中にアイルが取った林檎もほぼ一人で食べたというのにまだそれか。全く、お前の胃袋はどうなっているんだ?」


 フウカの言葉にオルリアが平然と言う。


「ふん。今までまともな食べ物を食べてなかったんだからこれくらいは許容範囲よ。これまでを取り戻す勢いで美味しいものを食べるんだから」


 ……蓄えがない訳ではないが、今後オルリアが同行している間は金銭管理を意識しなくては思いつつ会話に加わる。


「……ライアの街は海に近いからな。魚料理は美味い物が多かったと思うぞ。まぁ程々にしておいて欲しいけどな」


 魔王を倒すまでに手に入れた貨幣や宝石が潤沢にあるのでしばらくは路銀に困る事はないとは思うが、オルリアにかかる食費は頭の片隅に置いておく必要がありそうだ。


「大丈夫よ。必要になったらちゃんと自分の食い扶持は自分で稼ぐから。あ、でも次のライアの時はツケにしておいてね。魚料理と聞いたらまずは食べないと我慢出来ないから」


 そう言って船が港に着くのを今か今かと待つオルリア。これはひとまず港に着いたら食事にした方が良いなと思った。やがて船は無事に港へと到着した。


「……何か、聞いていた感じと違うわね。人は多いんだけど活気に欠けるっていうか」


 港に到着し、近くに大きな食事処がない事を知ったオルリアを宥めつつ真っ直ぐライアの街に向かうとオルリアの言う通り、どこか皆疲弊している様子だった。オルリアに続いてフウカも言う。


「うむ。それに鍛治屋の辺りも静かだ。昔ここを訪れた時はそこら中で煙が立ち上っていたが、今こうして見てもほとんどそれが見えん」


 確かに、以前は鍛治屋や漁業で賑わっていた印象であったがどこか道ゆく街の連中は皆険しい表情をしていた。


「……何かあったみたいだな。とりあえず、腹ごしらえも兼ねてそこらの酒場で情報収集といこうか」


 そう言って近くの酒場に向かう。流石に酒場という事もあり多少は賑わっていたが、やはりどこか皆の雰囲気は暗かった。


「あんたら、旅の人かい?また悪い時期に来たもんだねぇ」


 注文を取りに来た店の主人らしき初老の男がこちらに声をかけてきた。


「何かあったのかい?悪いが、詳しく聞かせて欲しいんだが」


 そう尋ねると、主人が重々しく口を開く。


「あぁ。鉱山の近くに魔族の残党がかなりの数居座っちまってな。お陰で鍛冶師や漁師を問わず若いもんはその対処に追われているのさ。あいつらをどうにかしない事には鍛冶も漁業もまともに出来ねぇ。各国に救援要請を出してはいるが、まともに取り合って貰えていない。勇者を輩出した国に至っては返事すらないっていう状況さ」


 他の国はともかく、あの王なら無理もない。自分の保身と私服を肥やす事しか頭にない人間だ。名誉に関わる国同士の国交や、自分に利益のある事なら速やかに動くだろうが遠くの一つの街からの要請程度では耳を傾ける事すらしないだろう。分かってはいたが改めてあの王に呆れてしまう。そう思っていると主人が続ける。


「てな訳で、余所者を含め腕に覚えのある連中を雇ってどうにか対処して貰っているっていうのが現状だ。口だけの奴から実力のある奴からピンキリみたいだけどな。ともかく、そのお陰でどうにか被害を最小限に留めているってところさ」


 そう言って主人が注文を紙に控えつつ奥へと戻っていく。直後にオルリアとフウカに声をかける。


「どうやら、目的の前に一つやる事が出来たみたいだな」


 自分の言葉にフウカが頷く。


「うむ。これを見逃す訳にはいかん。己の意思で行動出来るタイプの魔族のようだからな。しかもオルリアとは違い人間に明確に被害を与えている。早急に解決させねばならん」


 店の品書きを眺めながらやや不機嫌な表情でオルリアも口を開く。


「一緒にしないで欲しいわ。私、無意味に人間に危害を加えた事もその気もないもの。それに、その魔族連中のせいで魚料理の半分が提供中止になっているじゃない。新鮮な料理がそいつらのせいで食べられない訳でしょ?だったらすぐにでもそいつらを仕留めに行きましょうよ。あ、もちろん腹ごしらえをしてからね」


 やがて注文の品をトレイに乗せて主人が戻ってくる。オルリアの注文は一度に運びきれなかったようで数回に分けて運んできた。最後の品を主人がどうにかテーブルに置いたタイミングで主人に声をかける。


「なぁおっちゃん。その魔族の連中の討伐依頼ってまだ受け付けているのかい?」


 自分の言葉に主人が怪訝そうな表情を浮かべつつ言う。


「あ?あぁ。奴ら、数が多いみたいで猫の手も借りたいくらいだから今も募集していると思うが……まさかあんたらも行くっていうのかい?悪いが見た感じ、あんたらにゃあ荷が重いと思うんだが……」


 ここで自分の身分を明かしても良いが、先程の話からしてあの馬鹿王のせいでリハン国に対して良い感情は持っていないと思ったためあえて隠したまま話を続ける。


「大丈夫さ。これでもそれなりに場数は踏んできているんでね。悪いが、この後詳しく話を聞かせてくれるかい?」


 かくして、目的達成のためにまずは鉱山付近に巣食う魔族の群れを殲滅する事となった。


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