19話 アイル、次の目的地を決める
「さてと……この大陸の街や村でやりたい事は……っと」
骨が指し示した大陸を見て、この地域で何か出来る事がないかと考える。地図に記された街や村の位置を確認しつつ指でなぞる。
「……お、ここがあったか。どうやら次の行き先が定まったな」
そう自分が言うとオルリアが地図を見ながら自分に尋ねてくる。
「次の目的地が決まったの?どこに何をしに行く訳?」
オルリアの言葉に地図のある場所を指差して答える。
「あぁ。次に目指すのは……ここだ」
そう言って更に話を続ける。オルリアとフウカが地図を覗き込む。
「鍛治職人の街、ライア。ここが次の目的地だ」
二人にそう告げ、最後にもう一度三人で墓の前で祈りを捧げ、ニルの街を後にした。
「悪いなフウカ。次の目的地次第じゃもう一度村に立ち寄る事も出来ただろうが、ライアに向かうならこのまま北上して向かった方がいいからこのまま船着場に行く事になっちまうな」
ニルの街より更に北にある船着場へと向かう道中、歩きながらフウカにそう言うと、フウカが言葉を返す。
「なに、問題ない。皆にあのように宣言してたった数日で村に戻ったらいい笑いものだ。カザネも流石に長を引き継いだばかりで怠ける訳にはいかないだろう。半年ほど経った頃に抜き打ちで様子を見に行くくらいが丁度良いさ」
そう話すフウカを見て安心する。来た道を引き返し次の目的地に向かうルートならばカザの村に寄った方が良いのではないかと思っていたからだ。そんな事を考えているとオルリアが自分に声をかけてきた。
「ねぇアイル。次の目的地がライアって街っていう事はさっき聞いたけれどいったいそこには何をしに行くの?向かう前に教えてよ」
オルリアの質問にフウカも同調し、自分に尋ねてくる。
「そうだな。そういえば私も何故そこに向かうかは聞いていない。教えてくれアイル。なぜ今回ライアに向かうのかを」
そう自分に聞いてくる二人に、確かの何のためにライアに向かうかを伝えていない事に気付き説明する事にした。
「あぁ、そう言えば言ってなかったな。悪い悪い。説明したいんだがついでに出来れば……お、丁度良いところに林檎の木があるな。実も食べ頃みたいだし丁度いい。喉も渇いたし休憩ついでにここで説明させてもらうかな」
そう言って『賢人の皮袋』から一つのアイテムを取り出す。取り出された物を見てオルリアが言う。
「それは何?……メイス?いや、大きさ的に小型のハンマーかしら」
オルリアの言葉に頷きながら答える。
「正解だ。こいつの正式名称は『大地のハンマー』って言うのさ。何故そう呼ばれているかは口で言うより見てもらった方が早いな。念のため二人ともちょっと離れていてくれ」
そう言って林檎の木の周りを両手でハンマーを持ったまま歩く。その中で食べ頃かと思われる林檎が一番多く実っている木を見つけた。
「うん、こいつが一番良さそうだな。さてと……あまり強く叩くとまずいから加減して……っと」
ハンマーを握り林檎の木の前に立つ。あまり力を込めすぎない様に軽くハンマーで木を叩く。
「よっ……と!」
ハンマーがこつん、と木に当たる。次の瞬間、林檎の木が激しく振動する。
「なっ……!」
オルリアが驚愕する間にも木は激しく揺れ続け、林檎の実が次々に地面へ落ちる。やがて振動が収まり周りに静寂が戻る。ハンマーを袋にしまい、地面に落ちた林檎を拾い集め、その林檎を何個か手渡しながらオルリアに声をかける。
「……ってな感じの魔術道具さ。叩いた物に対して地震に近い振動を与える武器だ。木を壊さないように今は最小限に抑えて叩いたが、本気で地面を殴れば地割れを引き起こす事だって出来るぜ」
そう自分が言うと、林檎を手にしたオルリアが口を開く。
「……凄い道具ね。で、そのハンマーをどうする訳?てか、そんな凄い効果ならアイルがそのまま持っていた方が良いんじゃないの?」
フウカにも林檎を手渡し、ついでに自分が手にした林檎を一口齧ってから答える。
「まぁ、確かに便利っちゃ便利なんだが、正直持て余している道具の一つなんだよな。別に地割れを起こすとか単純に相手に振動を与えるだけなら他の道具や魔法もあるからな。こいつはとある魔術がかけられた岩壁をぶち壊す為に手に入れたんだが、それ以降はほとんど使っちゃいないのさ。下手に使うと仲間を巻き込んじまうからな」
そう言葉を返すと素早く二つ目の林檎を齧り終えたオルリアがごくん、と口の中の林檎を飲み込んでから言う。
「確かにね。強力だけど使いどころが難しそうなのは分かったわ。で、そのハンマーをその街にどうして持って行く訳?」
オルリアの問いに答えようとした自分の代わりにフウカが口を開く。
「……なるほど。鍛冶屋か。確かにあそこならそれを活用出来るな」
フウカの言葉に頷きながら答える。
「あぁ。叩く物全てに振動を与えられるこいつなら、どんな硬い金属もそれを利用して加工出来るだろう。もちろん、並大抵の鍛冶屋じゃまともに使いこなせないだろうがこいつを使いこなせる鍛冶屋に心当たりがあるのさ」
地面に落とした林檎を拾い集め終え、それを全て『賢人の皮袋』の中に入れる。どういう類の魔術がかけられているのかは分からないが、この袋の中に入れていると何故か食材や薬材がそのままの鮮度で保存されるのだ。本当に便利な袋である。
「ま、こいつも魔族や魔獣を殴るのに使われるよりかは人間の役に立つ武器や防具を作るのに使われた方が本望だと思うしな。さ、そろそろ行こうか」
二人に説明を終え、休憩を切り上げてライアの街に向かうべく船着場への道を再び歩き出した。




