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18話 目的達成、次の目的地へ

「……さっき話には聞いていたけど、本当に荒れ果てているわね。住む人がいないと建物ってこんなにボロボロになるのね」


 ニルの街に入り、周囲を見渡しながらオルリアが言う。


「そうだな。俺たちが来た時よりも更に酷くなったみたいだな。二人とも気を付けろよ。野生の魔獣が建物を根城にして住み着いている可能性もあるからな」


 そうオルリアに言って周囲を見渡しながらかつての街を進む。幸い、自分たちがかつて訪れていた時よりも荒れ果てていたため、ここを根城にしている魔獣の類はいないようだった。


(……街が人間に襲われたのは、俺たちがここを訪れるよりもずっと前の事だ。何かが出来た訳じゃないのは分かっている。だが、もし街を襲われたその時に俺たちがいたら何か出来たんだろうか)


 昔ここを訪れた際と全く同じ事を思う。その時の仲間の一人が街の惨状と残された手紙を見て吐き捨てるように言った言葉を思い出す。


『……これを俺たちと同じ人間がやったって事だよな?……ふざけんな!エルフたちにとっちゃ人間も魔族も変わりゃしないじゃないか。むしろエルフたちにとっちゃ人間の方がよっぽど害悪な存在じゃないか!』


 自分も全く同意見だった。宝石となる涙を流させようと捕らえたエルフにあの手この手の責め苦を与え苦しめる人間よりも、ただ捕食のためや本能のままに動く魔族の方がまだマシだと思った。……ここを離れたエルフたちはどんな気持ちで街を離れたのだろうか。


(……せめてあのルビーが俺たちの手に渡り、魔王を倒す目的の過程に役立った事だけでもいつかエルフたちに伝えられたら良いんだけどな)


 そんな事を思いながら歩いていくうちに目的地へと辿り着いた。


「ここが……さっき言っていた泉?凄く綺麗……水が透き通っているじゃない」


 オルリアが驚いたように言う。目の前には大きな泉が広がっていた。


「凄いよな。底が見えないのにこれだけ水が澄んでいるっていうのも合わせてな。さ、もう少し先だ」


 そう言ってオルリアを促すように歩く。程なくしてかつてルビーと手紙を手にした墓の前へと到着する。何か特殊な魔法か加工が施されているのか、墓は苔どころか汚れ一つなかった。


「……ここだけはあの時と変わらないな」


 墓を見てフウカがつぶやく。違うのはこの場にいるのがかつてのメンバーからオルリアに変わった事ぐらいだろうか。それ以外はまるで時が止まったかのようである。


「……そうだな。さ、それじゃ始めようか。その前にこいつを……っと」


 そう言って墓の前に道中で摘んだ花を袋から取り出して供える。


「……あぁ、アイルが途中で何か集めていると思ったらそういう事だった訳ね」


 墓石の横に花を供えている自分にオルリアが言う。


「あぁ。あいにく花言葉や意味合いなんていうのはとんと無縁なもんだから道すがら綺麗そうな花を適当に摘んだだけだけどな。ま、無いよりは良いだろうと思ってな」


 そう言って墓の前で目を閉じて手を合わせる。フウカもそうするのを見てオルリアもそれに習う形で同じ様に手を合わせる。そのまま三人で少し墓の前で祈りを捧げ、目を開けてから二人に声をかける。


「……よし。じゃあ早速済ませるとしようか」


 そう言ってルビーを取り出す。直接まじまじと見ないように手の中に握り込む形で泉の前に立つ。


「……ありがとうな。あんたの残したこの宝石が旅の中で役立ったぜ。長い事借りていたけど、今返させて貰うよ」


 そう言って泉に向かってルビーを放り投げる。緩やかな放物線を描き水面に着水し、とぷん、と音を立ててルビーが泉の奥へと沈んでいき、瞬く間に水中へと姿を消した。それを見届けてからオルリアとフウカに声をかける。


「よし、これで目的は達成だ。じゃ、次の目的地を決めるとしようか」


 そう言って袋から骨を取り出し、地図を地面に広げる。


「なるほど……こうやって次の目的地を決めている訳だな。もし同じところを骨が指したらその時はどうするんだ?」


 フウカの質問に、そういえばそうなった時の事を考えていなかった事に気付く。


「そうだな。その時は普通にもう一回骨を投げるもころからやり直しだな。いずれ行く場所も限られてくるだろうし、こいつもいずれ旅の途中で故郷の海に還してやるつもりだしな。その時は適当にそこらの石ころででも決めるとするさ。向かう場所が限られてきたらその時はまた考えるよ」


 手にした骨を見つめながら言葉を返す。


「了解だ。では私とアイルが出会う前の街や大陸に訪れる事もある訳だな。うん。長いはなよ……武者修行の旅としてはちょうどいい」


「……今、あんた何か別の言葉言いかけたでしょ」


 フウカに対してオルリアが突っ込む。


「……答える必要はない。そ、そもそもオルリアよ。お前は何故アイルの旅に同行するのだ?特に明確な目的がないのなら一人で自由気ままに旅をすれば良いではないか。何なら、今からでもそうしたらどうだ?」


 フウカにそう言われ、即座にオルリアが言い返す。


「はぁ!?おあいにく様!わ、私はアイルについて行くって決めたんだから。フウカだってあんな良い故郷があるんだからあそこにずっといれば良かったじゃないの!」


 ……少し何かあるとすぐこれである。きりがないので二人を黙らせる。


「はーい、二人ともそこまで。これ以上喧嘩するなら二人とも置いていくぞー。自分一人だけなら好きに移動出来るような道具もあるんだからなー」


 自分の言葉に慌てて押し黙る二人。やれやれとため息を吐きながら骨を地図の上へと放り投げる。小さな音を立てて骨が地図の上に落ちる。


「……っと。どうやら一発で次の目的地が決まったな。ここからなら船と馬車を乗り継いで向かえそうな感じだな」


 放り投げられた骨は、ここから海を挟んだ北の大陸を指し示していた。


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