13話 宴会再開、闖入者あらわる
「ふあぁ……よく寝たな。うん、体調もばっちりだ。体に酒も残ってないし今日もしっかり楽しめそうだな」
朝風呂にゆっくりと入り服を着替え、集会場の前までたどり着くとやや疲れた感じのオルリアの姿があった。
「ようオルリア。昨日は良く眠れたか?……って、その様子だとあんまり眠れてないみたいだな」
昨日の様子では酒はそこまで得意な方ではなさそうだったため、二日酔いの類かと思っているとオルリアが口を開いた。
「……あんたのせいよアイル。あれから無理矢理フウカに部屋に連れ込まれたと思ったら、あんたとの出会いから旅の思い出話に空が明るくなるまで付き合わされたんだから」
……あの時間から夜明けまでならかなりの時間である。オルリアが憔悴するのも頷ける。
「そ、そいつは災難だったな。まぁ、今日は無理せず程々にしておけよ」
そう返すと少し考えた様子でオルリアが首を振る。
「……まぁ、悪いだけじゃなかったけれどね。アイルの昔の話を聞いたり、二人でしか出来ない様な話もしたし。人間と私じゃ歳の違いはよく分からないけど、女同士でこんな風に話した事なんて今までろくに無かったから」
自分のどんな話をされたのか内容が気になるところではあるが、少なくともオルリアの表情から察するにその時間が不快ではなかった訳ではない事が見て取れた。同年代というには少し違うかもしれないが、見た目的には同じくらいの同性とゆっくり話すという機会はオルリアにとっては初めての体験だったであろう。
「そうか。会話の内容は気になるがお前が悪くなかったと思えるんならそれで良いさ」
そこまで話したところで、ジルゼが村の連中と大量の酒と食糧を抱えて集会場にやって来た。
「よう!二人ともちゃんと起きられたようだな!ささ!中に入って待っていてくれ!すぐに宴会の支度を始めるからな!」
ジルゼの言葉に村の連中も続く。
「お嬢ちゃん!昨日は何だか誤解して悪かったねぇ!ささ!それよりまた見事な食べっぷりを見せておくれよ!昨日は何だか中途半端になっちゃったからねぇ!」
「アイルさんも今日はゆっくり飲んでおくれよ!旅の話、楽しみにしているうちの坊主たちにも聞かせてやってくれよな!」
何人かの村人に口々に声をかけられる。皆が準備を進めているのを眺めている際、フウカの姿が見えない事に気付きオルリアに声をかける。
「あれ?そういやフウカはどうしたんだオルリア?お前、朝まで一緒だったんだろ?」
そうオルリアに尋ねると、オルリアも不思議そうな顔をして答える。
「そうね……確かに朝までは一緒だったけど、『色々と支度があるからオルリアは先に集会場へ向かってくれ』って言われてそれから見てないわ」
そう話すオルリア。まぁ修行先から急いで戻ってきたらしいから何かとやる事もあるのだろう。
「了解だ。じゃ、ひとまず俺らは中で待たせてもらうとしようぜ」
そう言ってオルリアと集会場の中へと向かった。程なくして宴会の準備が整い、あっという間に昨日の宴の続きが始まった。
「がははは!さぁ皆飲め飲め!仕事や家事は明日に回してしまえ!今日はひたすら皆で飲んで食うぞぉ!」
日を改めて仕切り直しとなった宴会だが、昨日とまるで変わらぬペースでジルゼが飲みながら皆に声をかけている。
「……相変わらずだなおっちゃん。俺も飲む方だと思うが流石におっちゃんには敵わないな」
自分自身もぐいぐいと酒を飲みながら周りの皆に酒を注ぐジルゼを見ながらつぶやく。
「もぐもぐ……そう?私からしたらアイルもめちゃくちゃ飲んでいる側だと思うけど」
目の前に出された料理を片っ端から平らげつつオルリアが言う。……本当にその細い体のどこに入っているのだろうか。
「おぅ……まぁ、お前も程々にな」
そう返すとこちらの意図が伝わらないのか次の皿に手を伸ばしてオルリアが言う。
「私?大丈夫よ。お酒はそんなに得意じゃないから適度に嗜むわよ。……あ!その煮込みお代わり頂戴!大盛りで!」
……まぁ腹さえ壊さなければ良いかと思い、自分も適度に飲みつつ村の連中との会話を楽しむ。一時間ほど経過した頃だろうか。突如集会場の扉がゆっくりと開き、よろよろと倒れ込むように一人の男が入ってきた。男の腕と足には片方ずつ、見るからに重そうな拘束具が付けられていた。
「……ちょっとアイル。あの男は何?何か囚人みたいな重りが付けられているけど……」
たまたまお互いに酒や飯のお代わりを取りに行く途中だった自分たちが扉の一番近くにいたため、ひとまず自分が男の元へ駆け寄る。息も絶え絶えといった感じ男が蹲ったまま小さく声を漏らす。
「み……水……とりあえず……水を……」
その声に慌てて近くにあった水の入った器を男に差し出す。拘束具の付いていない方の手でそれを受け取ると男がそれを一気に飲み干す。そこでようやく人心地ついたのか、男が安堵のため息を漏らす。
「ふう……助かった……あれ?貴方は……アイルさん?お久しぶりです。何でうちの村にいるんですか?」
男が自分の顔を見て驚いた様子で言う。そこでようやく自分も男の顔を見る。見れば男は自分の知っている顔であった。
「お前は……カザネじゃないか。何でまたそんな格好なんだ?」
その様子を見て危険が無いと悟ったのか、オルリアも自分たちの所に近付いて声をかけてくる。
「え?アイルこの人知ってるの?誰なのよこの人」
オルリアがそう尋ねてきた瞬間、ジルゼもこちらに来て開口一番に叫ぶ。
「……あれま!どうしたカザネ!そんな死にかけみたいな状態になって!」
その声に村の連中がカザネに駆け寄って来たため、自分とオルリアはひとまずその場を離れる。すかさずオルリアが再び自分に尋ねてくる。
「ねぇアイル、さっきの話だけどあの人って……」
そこでオルリアの質問に答えていなかった事に気付き、答えを返す。
「あぁ。あいつの名前はカザネ。フウカの実の弟だよ」
自分の返答にオルリアが驚きの表情を浮かべた。




