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10話 アイルとオルリア、歓待を受ける

「がははは!相変わらずいい飲みっぷりだなぁ勇者の兄ちゃん!さぁ飲め!もっと飲め!」


「おいおい姉ちゃん、美人なのにめちゃくちゃ食うなぁ!ささ、こっちもうちの村の名物だ!養蜂した蜜蜂の蜜をたっぷり使った蒸し菓子だ!こいつも食べてみておくれ!」


 集会場に村の大半の面子が集まり飲めや騒げやの大宴会が行われている。自分には果実酒が、オルリアの前には食べ物が大量に振る舞われている。


「もぐもぐ……熊の肉ってきちんと処理したらこんなに美味しいのね。この蒸し菓子もふんわりしていて……更にその上にたっぷりかかった蜂蜜が最高。こんなのいくらでも入っちゃうわ」


 その言葉通り、既に自分の倍以上の量の料理を余裕で平らげているオルリア。その食欲はまだまだ止まらない様子だ。


「あぁ。おっちゃんの血抜きと皮剥ぎの処理も完璧だったし、手伝った俺たちで茹でる前にしっかり赤身と筋と脂を切り分けただろ?あれが臭みを取り除く決め手だよ。ま、その後に肉にしっかりと味付けしてくれた村のおばちゃん達の腕もデカいけどな」


 自分がそう話すのを聞きつつ器によそわれた鍋を平らげ、すかさず煮込みに箸をつけながらオルリアが言う。


「そうなのね。私は向こうじゃ肉が手に入っても適当に皮を剥いで塊を火で炙る感じでしか食べた事なかったから。……なんなら火がない時は生肉で齧った事もあったわね」


 さらっとそう言うオルリアに、こいつはこいつで苦労したのだと思った。純粋な魔族と違い半魔族のオルリアは味覚も人間に近い分、魔族と過ごしての食生活は生きるためとはいえ辛いものがあっただろう。


「……ほれ。鍋のお代わりが来るまでとりあえずこれ食っとけ。俺は酒がひとまずあればいいから。気が済むまで腹一杯食えよ」


 そう言ってまだほとんど手をつけていない煮込みの入った皿をオルリアの前に差し出した。


「……良いの?じゃあありがたく貰うわよ。それにしても本当美味しいわ。旅の最初からこれならこれからどれだけ美味しい物と出会えるか楽しみだわ」


 言うが早いか自分が渡した煮込みの皿に手を付けるオルリア。村の連中から見ても彼女は魔族には見えないらしく、ただ大食いの美人という形に映っているようだ。その豪快な食べっぷりを見て村の連中も初対面のオルリアをすんなりと受け入れている。気付けば村のおばちゃん連中や子供がオルリアの食べっぷりに感心している。


「いやぁお嬢ちゃん、見ていて本当気持ちいい程の食べっぷりだねぇ!作った甲斐があるってもんさ!しかし、その細い体のどこにそんなに入るのかねぇ。ささ、これも食べて食べて!」


「お姉ちゃんすごーい!あのお皿にあったお肉がもう全部なくなってるよ!あ、こっちの蒸し菓子ももう無いよ!信じられない!」


 その反応を見て恥らうどころかどこかその声に得意気になるオルリア。こいつの胃袋はどうなっているのかと疑問に思いながらも本人が満足そうなのでひとまず様子を見守る。


「ふふん。まだまだいけるわよ。さ、お肉も蒸し菓子もまだまだ持ってきて頂戴」


 何故か誇らしげにそう宣言しておばちゃんや子供達に囲まれ次の料理を待つオルリアを見ていると、挨拶回りを終えたらしいジルゼが大きな酒瓶を待って自分の隣に座って声をかけてきた。


「よう兄ちゃん!ちゃんと飲んでるか?ささ、今日はまだまだ付き合ってもらうぜ!」


 そう言ってジルゼが自分の器に果実酒を注ぐ。そしてどっかりとその場に胡座をかいて自身の器にも酒を並々と注ぐジルゼに言う。


「あぁ。ありがたく頂いてるよ。しかし、相変わらず本当に美味い酒だな」


 そう言葉を返しつつさっそく注がれた酒に口を付ける。ジルゼもぐいと酒を飲み干しすかさず自分と自身の器にまた酒を注ぐ。


「おう。鉄だけじゃなくて酒もこの村自慢の果実で仕込んだ一品だからな。お嬢ちゃんは……っと、あっちは酒より飯みたいだな。ま、こっちは男同士でよろしくやろうや」


 そう言ってまた勢い良く酒を呷る。これは長い夜になりそうだ。ジルゼの話がひと段落したところでジルゼに尋ねる。


「そういや、あいつの姿が見えないな。おっちゃん、あいつはまた修行中か?」


 自分の問いに酒を一口飲んでからジルゼが答える。


「おう。二日ほど前から弟と山の奥にある修練場で巣篭もり中だよ。お前さんが来たから使いを出して呼びにいかせたところさ。普段なら何があろうと期間を終えるまで出てこない筈だが、お前さんが来たとあれば何をおいても駆けつけるだろうさ」


 そうジルゼと話していると、自分の差し出した皿に加えて追加のお代わりを平らげたと思われるオルリアがこちらに近寄り声をかけてきた。


「何よ。あんた全然食べてないじゃない。こんな美味しいご飯、またいつ食べられるか分からないんだからもっと食べなさいよ。私、まだまだいけるわよ」


 恐ろしい発言をさらりとするオルリア。その様子を見てジルゼが豪快に笑う。


「がははは!気に入ったぜお嬢ちゃん!すぐにお代わりが来るだろうからその間少しこいつでも飲んで待っていておくれ!」


 そう言って新しい器に自分たちより少なめに酒を注ぐ。一口それを口にして軽くむせるオルリア。


「けほっ……これがお酒って奴?一口飲んだだけで喉と体が熱いんだけど」


 そう言いつつもちびりちびりと器に注がれた酒を飲むオルリア。その様子を見てジルゼがオルリアに声をかける。


「おっと。お嬢ちゃん酒は苦手かい?何なら果実水もあるからそっちにするかね?」


 そう言って立ち上がり果実水を取りに行こうとするジルゼを手で制しながらオルリアが言う。


「……大丈夫よ。少しずつ飲めば良いから。それにゆっくりと味わうと悪くないじゃないこれ」


 そう言いながら言葉通り少しずつ果実酒を口にするオルリア。


「そうかい?ま、酒も水もたっぷりあるから無理はしないでおくれよ。しかし、勇者の兄ちゃんも隅におけないねぇ。いつの間にかこんな美人さんと旅をしているなんて」


 ジルゼにそう言われ、またもや気を良くした様子のオルリア。既にほんのり顔が赤らんできたようだが大丈夫だろうか。


「び、美人とかそんな……まぁ、間違ってはない……わよね?」


 そう言って何故か自分に尋ねてくるオルリア。適当に流しつつ答えようとするよりも早く、ジルゼが口を開く。


「いやぁ……だがあいつもショックだろうなぁ。まさか勇者の兄ちゃんが嫁さんを連れてくるなんてあいつも夢にも思ってなかっただろうに」


『……ぶふっ!!』


 おっちゃんのまさかの発言に、オルリアと同時に口にした酒を盛大に吹き出してしまった。


「ちょ、おっちゃん!違うって!こいつとは旅の途中でたまたま出会って同行しているだけだから!」


 慌ててそう言いつつ近くにあった布で口を拭い、おっちゃんの言葉を否定する。続けてオルリアも口を開く。


「そ、そそそ……そうよ!……よ、よ、嫁だなんて!そ、そういう関係になるのはもっときちんとした手順を踏んでからなんだからね!?」


 否定の仕方がどこかおかしいと思いつつもオルリアが言う。顔が先程よりも赤くなっている。酔いが回る前に早いところ酒から果実水に切り替えさせた方が良さそうだ。


「ありゃ?そうなんかい?世界も平和になってきたから、てっきり嫁さんを連れての諸国道中かと思っちまったよ。わし以外の村の皆もそう思ったからあいつの迎えのもんにもそう伝えて……あー、となるとマズい事になるかもなぁ……」


 そうジルゼが言ったと同時、集会場のドアが壊れたかと思うほどの音を立てて勢い良く開かれる。その直後、聞き慣れた少女の声が周囲に鳴り響く。


「アイルーーーっ!!私という者がありながら嫁を迎えたとはどういう事だーっ!!」


 ……そう叫ぶ彼女の名はフウカ=バーミーズ。


 かつての仲間であり、共に魔王を討ち倒したメンバーであった。


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