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砂糖を溶か

 純粋なアルコールに砂糖を溶かしたみたいな、という一節を最近読んだ気がするのだけれどこれは果たしてどこに書いてあった文章なんだろう。僕は久しくお酒を飲んでいなかった。以前はそれくらいしか楽しくないみたいな風で、情けなかったのだけれど、これを成長と思っていいものだろうか。

「いいよ。」

 そう言われたからといって、言われたとおり成長と捉えるわけでもないのだけれど、今夜は疑問疑問の時間を過ごす、うちから湧き出てくる自分が次々と霧散していくみたいな夜だった。


 お酒を飲んでしまったらこんな感覚には到底たどり着くことができない。これで結構頭を使う活動らしい。お酒を飲むとどうしても文章が書けなくなると気が付いてから、僕はお酒を避けるようになっていた。意識的にというよりかは、それは動物的な有様だった。人間は考える動物だから、お酒で思考停止して笑っている方がよっぽど非動物的な行いといえる。逆に思考が辛いから素直にお酒に逃げているという見方をすれば、それはとてもひ弱な動物的行いともとれるわけだが、それは各々好きな解釈をとって問題ないんじゃないだろうか。僕はあんまり動物が好きじゃないんだ。

 猫派・犬派みたいな話題が、今日もいたるところでとりあえずの鈍らでテーブルに放り出されている。こんな問いにマジメになることもないんだけれど、それでも僕は答えるときに嘘をつく感じがして嫌いなんだ。そんなにハッキリどっちが好きなんて、本当にみんながみんなあるんだろうか。こういうのは大抵、フラットに5:5の気持ちが、天気とか場所とか答えなきゃっていう必死さによって微妙な値の傾きがつき、4.9:5.1で「えっと猫派」ですってことじゃないか。この程度も易々と答えられない生き方してるからダメなんだと言われれば、たしかに反論はないのだけれど、片っぽから反論のないコミュニケーションこそイケないコミュニケーションだってことは、案外反論の余地を持たざる人間の方にしか知られていない。犬派の飼い主の声がたった数十秒の動画にぎっしり詰まっていた。犬派も猫派も、いずれ飼い主の声から順に動物を嫌うようになる。いまがその過渡期なんだろう。みなさん一緒に酒をやめましょう。そうすれば僕らは動物にもなれるし動物じゃない何かにもなれる。そして疑問の夜を過ごすんだ。頭から自分という意識が散っていくその様は、僕の場合、桜だった。


「これで桜はオレのモチーフだからお前らは別のにしろよな。分かったか!」

 動物であり動物でないガキ大将。半ズボンにみえて黒のスキニー。首元に低い音色の鈴をつけ、自分は牛だと言って回っている。魚屋の息子。磯臭さにいまだ乳飲み子の香り。近頃インベーダーを卒業してホットラインマイアミに着手。友達の友達であっても遠慮はしない。空が青い日には決まってオレンジのTシャツを着る。空が暗い日には決まって紅のパーカーを着る。哲学は神学の婢。目の前の相手を相手とも思わない屈託の笑顔。相手の目を見ようが見まいが、彼はとどまるところを知らない稲妻だった。

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