時を戻せるなら
セインはこの場から私を残し、退避することに同意してくれた。だがアイスブルーの美しい髪をサラリと揺らし、退避する代わりに、私を抱きしめたいと言い出したのだ。
「それは……」
私にはシリルがいる。
彼以外に抱きしめられるなど、あっていいことではない。
無理だと断りたいが、そうすればセインは退避を拒否するだろう。
「そうまでして残りたいのなら、残ればいい。死ぬだけだぞ?」
そういって突き放すことは……できない。
セインの忠誠心。
そこに恋愛感情があったのだとしても。
彼が成し遂げた偉業の数々で、一つの国が支えられていたことに、変わりはない。元女魔王として、その彼がむざむざ死ぬのを、見過ごすことなどできなかった。
この世界は前世日本とは違い、ハグの文化がある。
そうだ。
「抱きしめる」ではなく「ハグ」。
そう捉えよう!
「分かった。こうしている間にも、黒のワームは数が増えている。手短に頼む」
私の手首をセインが掴んだ。
そう思ったら、その胸の中に、抱き寄せられている。
ぎゅっと。
シリルは貴公子な見た目に反し、言葉使いがサバサバしていた。
それでいて私を抱き寄せる時は、いつもふわりと優しい。
だから今のセインのように荒々しく抱きしめられると、驚きもあり、ドキドキしてしまう。
しかも……。
「ずっとこうしたかったのです。でもオデット様は、わたしの手の届く立場にはなかった。募る想いは忠誠心として示すことしかできず、どれだけ苦しかったか……。時を戻せるなら、オデット様に想いを告げたかったです……」
耳元で切なさそうに囁き、そのままセインが私の髪に顔を埋める。
「セ、セイン、もう、離れろ。こんなことしている場合ではない」
だがセインは、ますます強く私を抱きしめるばかり。
これはまずい……と思ったその時。
「ハグにしては長いだろう?」
シリル!
名残惜しそうにセインの体が離れた。
同時にシリルの腕が腰に回され、さらにふわりと背に添えられた手が、自身の胸の方へと私を抱き寄せる。
「オデット」と甘々なシリルの声に顔を上げると、ふわりと唇が重なった。いつものように、その唇はすぐに離れてしまう……と思ったが、そんなことはない。しっかりシリルの唇の温かさ、艶やかさ、柔らかさを感じ、意識が吹き飛びそうになる。
だから今、こんなことをしている場合ではない!
これではまるで、前世でよく観たアクション映画の危機的状況で、ヒーローとヒロインがキスをするのと同じではないか。
シ、シリル……!
心の中で呼びかけることしかできない。
そう、シリルのキスは続いていた。
ダメだ。
完全にセインのハグ……セインが私を熱烈に抱きしめるのを見て、火がついてしまった……。
嬉しいのだが、それどころではないと思った私は、シリルの脇腹を探るように触れていた。
すると……。
「オ、オデット!」
シリルが慌てた様子で唇をはなし、脇腹に触れる私の手を掴んだ。
どうしたのかと思うと、どうやら脇腹は……シリルの弱点だったようだ。
つまり、くすぐったい、ということ。
顔を赤くし、涙目になるシリルは……。
いつもの自信満々な彼と大違い。
これは……嗜虐的な気持ちになり、もっとくすぐりたくなるが、我慢する。
そして一旦、女魔王であることは伏せたまま、女魔族であるが、魔力があると打ち明けると――。
「知っていた」「えっ」
ここで衝撃を受けるのはシリルのはずなのに! 驚愕しているのは私だった。
「なぜ知っているのだ!?」
「昔、自分はオデットと会ったことがある。オデット自身が『私には魔力がある。いざとなればなんとでもなる』と言っていた」
「そ、そうだったのか……」
驚く私に、シリルはこくりと頷く。























































