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乙女ゲームのラスボスですが、勇者と結婚することになりました。  作者: 一番星キラリ@9/2やられる前に発売:商業ノベル&漫画化進行中


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呆気なかった

 セイン・ダークミスト。


 魔族の国、アビサリーヌの騎士団の団長であり、私に次ぐ魔力の持ち主であるセイン。


 アイスブルーの髪は、いつも少し長め。


 人間たちの軍を迎え撃つため、魔王城を出た途端。

 セインは自身の身だしなみに、無頓着となってしまう。そんなことよりも、部下や現場の指揮をとり、勝利へ突き進むことを優先している。


 ただセインはそもそも髭は伸びにくいようで、放置しても産毛のように、うっすらとしか生えていない。だがその分、髪が伸びるのが早い。


 長くなったアイスブルーの髪は、サラサラのストレートで、実に美しい。


 だが戦況がひと段落し、魔王城へ戻ると、その美しい髪をバサリと切ってしまう。

 よって少し長めの髪が、見慣れたセインの姿だった。


 でも今のセインは……。


 艶やかなアイスブルーの長い髪が、横たわる白の枕とシーツの上に、美しく広がっている。

 瞼は閉じられ、あの氷のような銀色の瞳は、見えていない。


 キリッとした眉に長い睫毛。

 シャープな顔立ちで、肌は陶器のように白いが、唇と頬はうっすらと桜色だ。

 それはどう見ても生きているようにしか思えない。


 シルバーホワイトの軍服姿のまま、ベッドに横たわっていた。


 眠っているようにしか見えないというのは、本当だった。


「セイン、起きろ。私だ。オデットだ。お前の寝顔なんて、初めて見たぞ」


 気づけば、そう話しかけていた。

 私の一歩後ろにいるシアとペルが息を呑み、そして涙をこらえる様子が伝わってくる。

 二人の様子から、この事実を受け入れなければいけないのか――そう、どこかで悟るが、それでもやはり。


 信じられない思いが強い。


「セイン……。なぜだ? なぜ、私を……私を置いて、毒などをあおった? 私は毒を飲むことなど、許可していないぞ!」


「「オデット様!」」


 シアとペルが叫び、一瞬、二人の手が私に触れたと思う。

 だが、私は……。

 これは自分の意思なのか?

 石棺の中のセインに、まるで吸い寄せられるようにして……。

 私はふわりとセインの体を……抱きしめていた。


 シリルの言葉が脳裏をよぎる。


 ――「報告によると、毒により自害した彼の体は傷一つなく、まるで眠っているかのようで。それでいて彼に触れようとすると……。彼の飲んだ毒が余程なのだろう。セインの体からは、毒が発せされているのか。触れた者は命を落とす」


「ダメです、お二人とも離れてください!」とシンの声が聞こえる。

「でもオデット様が!」「オデット様!」とペルとシアが私の名を呼ぶ。

「落ち着いてください、皆さん!」と護衛騎士二人が、三人を宥めようとしている様子も伝わって来た。


 シリルに対してあれだけ「生きて帰ってきて」と頼んだのに。

 私は……自らセインの体――毒に触れてしまったのか。

 毒に触れたはずなのに、苦しみは訪れない。

 セインのことだ。

 苦しむことなく、眠るように命が尽きる毒を、魔術で練成したのだろう。


「オデット様。やはりここにいたのですね」


 不意に聞こえた声に、ドクンと心臓が反応する。

 私は今、セインの隣に並ぶように、横になっていた。

 そして聞こえてきたこの声は――。


「セイン……?」


 見上げると、あの銀色の瞳と目が合った。


「こうするしか、会う方法はなかったですよね? 魔王城が陥落しただけではありません。暗黒の国アビサリーヌが負けたのです。そうなったら、生きてオデット様に会う方法なんて……ありませんよね?」


「そうか。だからこうやって死者となり、再会ということか?」


 呆気なかった。

 苦しむ暇などなく、私は彼岸を越えていたようだ。

 それだけセインが優秀であり、彼が魔術で練成した毒は、猛毒・劇毒だったということ。

 だがおかげでセインとこうやって再び、会話することができているのだろう。


 私の皮肉を聞いたセインの口元に、フッと笑みが浮かぶ。


「オデット様は、レニアに遠征するわたしに当たり前のように『ではどのような戦局であろうと、季節が変わる前に戻って来い。季節の変化に兵は敏感だ。長引いていると悟ると、士気が落ちる。遠征では特にそうだろう、セイン?』とおっしゃりました。ちゃんと約束通り、戻りました」


 死してもなお、私が言ったことをきっちり守り、戻って来たとセインは言っている。

 なんて律儀で忠誠心が強いのだろう。


 だが……。


「死んでは意味がない。生きてこそだろう、セイン」


 少し脱力してそう言うと、セインが鼻で笑う。


「当然でしょう」と。


「……だがセインも私も、もうこの世にいない」


「オデット様、それではわたしはあるじ殺しになってしまいます。それは騎士道精神に反します」


 セインの言葉に「えっ」と思う。


「よもやオデット様まで、わたしが自害をしたと信じたのでしょうか?」


「違うのか……?」


 大きくため息をつき、セインがとんでもないことを言いだした。


「毒をあおった――それをまさかオデット様まで信じてしまうとは」


「……飲んでいないのか?」


「飲むわけがありません。毒を飲んだと思わせ、ずっと寝たふりです。常に自分の周りに魔術を展開していました。オデット様は知っているでしょう、わたしが使う風殺術を」


 風殺術。


 私が炎の魔術を得意とするように。セインは風の魔術を得意としていた。

 風殺術は、まさにかまいたちのように、風が剣となり、相手を傷つけることもできる。

 さらに敵の周囲を真空状態にすることもできた。


「つまり、セインに近づくと、毒により死に至るというのは……」


「風殺術です。毒でやられたと見える演出をしているに過ぎません」


 これには驚きより、「なるほど」だった。

 冷静に考えれば、セインはこれぐらいのことお手の物。

 完全に「毒をあおり、自害」の情報に引っ張られ、魔術を使い、演出していたとは思い至らなかった。それは人間も、魔族(私)も。


「今は……今はどういう状況だ!?」


 ハッとして、シアとペル、シン、護衛騎士達の方を見るが、彼らは石棺のそばを離れているようで、ここからは姿が見えない……と思ったが。


「起き上がりましょうか、オデット様」


 セインがそう言いながら、ゆっくり上体を起こす。

 私もそれにあわせ、上半身を起こした。

 こうやって体が動くことで、不思議と生きていると実感できている。


 セインは肩を回し、伸びをして、首を回している。


「急に動いて、問題ないのか!?」


「常に誰かがじっと見ているわけではないですから。深夜に起き、体は動かしていました」


「……大胆不敵だ」


 フッと笑ったセインは、そのまま立ち上がり、軽々と石棺の外へ出てしまう。

 急に体を動かしても、全く問題ないようだ。


「さあ、オデット様」


 セインは腕を伸ばし、軽々と私を抱え上げ、石棺の外へ出してくれた。

 そこで私は仰天することになる。

 大理石の床に、皆が倒れていたからだ。


「どうして、みんな!? シア、ペル!」


 慌てて倒れているみんなの所に駆け寄ると、セインがゆっくりと靴音を響かせ歩いて来る。


「皆、気絶しているだけです。風殺術を使い、気絶させました。命に別状はありません」


 そこで私はセインに尋ねることになる。


「セイン……。もう私たちに帰るべきかつての故郷はない。アビサリーヌは、人間が統治する新たな国に変わる。もう人間と魔族の争いは終った。これからは共生だ。残った王族の血を引く者は、私と叔父上しかいない」


「キルか。裏切り者ですね」


「え……」


 そこでセインはキルに関する驚くべき事実を語った。


「それを知ったのは、あのふざけた黄金のドラゴンに関する知らせを受けた時です。ひそかに内偵を進め、キルのことを探っていました。あの腹黒狸。なかなか本性を見せません。キルはずっと、人間の味方をしていました。スパイです。つまりは内通者」


「そんな……」


「キルは人間との和平を願っていました。黄金のドラゴン作戦のことも、知っていました。魔王城内に黄金のドラゴンを運ぼうと言ったのは、キルだったのでしょう?」


 その通りなので、私は頷くしかない。


「オデット様と勇者シリルを結婚させ、魔族から大義名分を奪う――それを考え出したのは、キルです。自身の安全と身分の保証と引き換えに、オデット様が魔王の娘であると嘘をついたのも……キルですよ」


 座り込んで、シアとペルを起こそうとしていた私を、セインが立ち上がらせた。

 その銀色の瞳に不安な色を浮かべ、私に尋ねる。


「まさかオデット様。シリルと婚姻関係を結んでいないですよね?」

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