私でも勝てるかもしれない
「シリル、魔王は発見できました。ただ、既に毒をあおり、死亡していましたが」
勇者の名は、シリルというらしい。
そしてシリルの背後から聞こえてきた声は、女だった。
魔王討伐パーティにいる女と言えば、聖女か。
そう思い、顔をシリルの背後に向けると……。
驚いた。
聖女ではない。
女なのに、赤いサーコートをつけ、甲冑を着ている。
つまりは女騎士だ。
女騎士なんて、初めて見た。
キャラメルブロンドをポニーテールにしている女騎士の顔を、思わずガン見してしまう。
蜂蜜の色の瞳で、唇は桃色。
体型としては私と変わらないように見えるのに。
これで騎士なのか……。
その時、気が緩んでしまった。
私の手は、勇者シリルの手でペンダントから外されてしまう。
ペンダントから外された手は、そのままシリルに握られている。
振り払おうとするが、ビクともしない。
「そちらは……魔族の女性ですね?」
「そうだろうな」
「キル殿が言っていた、魔王の娘、すなわち王女でしょうか? この世界では珍しい黒髪にルビー色の瞳。人間の年齢では二十歳ぐらいの外見。特徴として、一致します。名はオデット・ルネ・デスローズ」
女騎士の言葉にドキッとする。
せっかく侍女と同じドレスを着ていたのに。
女魔王であることはバレていないが、名前はバレている。
しかも明かしたのは叔父であるキル……。
名ばかり魔王の娘、王女だと私を思わせるようにしたのか、キルは。
どうしてだろう?
いざとなったら私は侍女に扮すると、事前に打ち合わせしていたのに。
それに私の名は知られていない。秘匿されてきた。
フルネームを教える必要はなかったのでは……?
そう思ったが、すぐに理解する。
……もしかすると魔法使いにより、自白を強要されたのかもしれない。
魔法を使われては、話すしかなかったのだろう。
それでも女魔王であることは言わずにいてくれた。
叔父の強靭な精神力に感謝するしかない。
「魔王が自害した今、残された王族は王女だけ。王女は貴重な存在となるだろう。レダ、オデット王女を連れ帰れ。護衛を頼めるか?」
「勿論です、シリル」
これは私が「えっ!」となる。
エルエニア王国に私を連れて行く!?
そんなことになれば、辱め受け、市中を引きずり回されるかもしれない。
魔術を使い、勇者と女騎士を殺してやる……!
ペンダントに手を伸ばそうとするが、相変わらずシリルの手が強く、動かすことができない。
そうしている間にシリルは女騎士レダに、私の手を拘束するように伝えてしまう。
拘束されまいと、暴れようとした。
だがシリルとレダとの二人がかりでは、魔術を使えない私は、どうにもならない。
あっという間にロープで結わかれ、しかもそのロープはレダがしっかり持っている。
「あとでレウェリンに言って、拘束の魔法をかけてもらうように」
「了解です。シリル」
拘束の魔法!?
そんな魔法をかけられては、絶対に逃げられなくなる。
シリルはエルフと魔法使いの後を追うように、廊下を進んで行く。
一方、レダは私を連れ、逆方向へ進もうとした。
レダと私。
同じ女。
一対一。
これなら私でも勝てるかもしれない。
そう考え、レダから逃れようとしたが……。
シルルほどではないが、レダも力がある。
逃げ出そうともがくが、いとも簡単に宥められてしまう。
女騎士、恐るべし。
甲冑を着た上で、これだけ動けるなんて、只者ではない。
結局、魔王討伐パーティの勇者と女騎士に拘束された私は、レダにより王宮から連れ出され、馬車に乗せられてしまう。
馬車が走り出す前に、もう一度だけ、暴れて逃亡を図ったが……。
「随分とのう、威勢のいい姫君のようだ」
声の方を見ると、白いローブに魔法石がついた杖を持った男性……見るからに好々爺がいる。
それはさっき、エルフと共に廊下を駆けて行った魔法使いだ。
驚きの連続だった。
あれだけ素早く動いていたから、若者かと思ったのに。
白髪白髭のおじいちゃんだったとは!
グレーの瞳で私を見たレウェリンという魔法使いは、突然、杖を振った。
魔法をかけられると思ったら……。
杖の先から出てきたのは、美しい白い翅を持つ蝶だ。
キラキラと光を散りばめながらその飛ぶ蝶に見惚れていると、その蝶は、私の手首を結わくロープにとまった。
次の瞬間。
蝶を包む光が弾けたと思ったら、私の手首からロープが消えている。
これは……!
ペンダントを掴もうと、手を動かそうとした。
が。
動かない!
そこでようやく、拘束魔法をかけられたのだと気が付いた。
「卑怯だぞ、魔法使い!」
再び、暴れようとした私にレダが「落ち着いてください、王女様」と若干呆れた気味で声をかけられる。
魔法使いは「やあやあ、元気じゃのう」と笑っていた。
キーッと頭に来たのと同時に。
ズキンと頭に痛みを感じる。
「!」「王女様?」「うん、どうしたんじゃ?」
突然、目の前が薄暗くなり、私は……意識を失った。