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あ、これは創り出してなかったか。私はそのことについての思いを口に出す。
「この国は教育機関が充実しており、子どもたちは十五歳になるまで適性に合わせて楽しく学べる。更に深く学びたい者にはその道も開かれている。そして、深く学んだ者たちの生み出した成果は、この国を確実に強く、豊かにしていっている」
話していた男の子の表情が変わる。
「あ、学校ね。学校は楽しいよ。みんなと遊ぶのは凄く楽しい。でもちょっと勉強は苦手かな」
私はそんな彼に微笑みかける。
「そうだね。勉強はちょっと嫌かもね。でもね、やってみると結構楽しい時もあるし、今は分からないかもしれないけど、大人になって大工の仕事やっていると絶対に勉強やっといてよかったと思う時がくるよ」
まったく。自分でも何でこんなこと言い出したんだか分かんないよ。「花の女子高生」だった私は年中「何でこんな苦労して勉強なんかしなきゃなんないんだ」と思っていたんだから。
まあ、それはそれ、これはこれ。ここは過去の自分は棚に上げる。
「番様。番様」
今度は女の子が声をかけてくる。
「私はお姉ちゃんみたいな学校の先生になりたいの」
うーん。いいなあ。学校の先生をしているお姉ちゃんに憧れる幼い妹。これはこれで感涙ものだわ。
「番様。番様」
「あ、ごめんね。思わずジーンとして我を忘れちゃったわ。大丈夫。あなたは一所懸命やっているみたいだし、きっとその夢は叶うよ」
「番様。番様」
「番様。番様」
たくさんの子どもたちが私と話そうとしてくれている。嬉しい悲鳴だ。うんうん。一人ずつね。全員のお話を聞かせてもらうから。
◇◇◇
「おはようございまーす。神様―っ、番様―っ」
外から聞こえる声で目が覚めた。いつの間にか子どもたちと一緒に寝てしまったらしい。
子どもたちもそれぞれ目をこすりつつ起き出す。大きなあくびをしている子も何人かいる。
「神様―っ、番様―っ、昨夜はうちの子たちがお世話になりました。これから朝ご飯食べさせて、学校に行かせます」
はー、学校定着しているんだ。よかったよかった。
「ほらー、みんな、神様と番様によくお礼を言って、帰るよ。そして、ご飯食べて学校行くんだよ」
「「「「「はーい」」」」」
子どもたちは私と青龍の方に向き直ると一斉に頭を下げた。
「「「「「神様っ、番様っ、ありがとうございましたっ!」」」」」
青龍は何も言わず、ただただ微笑んでいる。私も笑顔でこう言った。
「みんな、こちらこそ楽しかったよ。ありがとう。また遊びにきてね」
「「「「「はいっ!」」」」」
私は親たちに手を引かれ、何度も私たちの方を振り返る子どもたちを最後まで見送った。
◇◇◇
その間、青龍は謎の微笑を浮かべたまま、私の方を見るでなし、子どもたちの方を見るでなし、要は全体をそれとなしに見ていた。子どもたちがいなくなってもそのままだ。
一方の私は子どもたちがいなくなってから、どっと疲れが出た。子どもたちとのお話は全く苦痛ではなく、楽しかった。夜遅くまで話したのは事実だが、それは疲労に繋がっていないと断言できる。むしろ活力の元だ。では何故私はこんなに疲労感を覚えるのか? それは……
「さすがは龍子の想像力・創造力・表現力が創り出した子どもたちだわ。これは何としても守ってやんなきゃな」
これだ。悔しいくらいにピンポイントでこちらの悩んでいるところを突いてくるんだ。青龍の奴めは。
そうなのだ。今の私はこの不安に押しつぶされそうになっている。もう何が何でも子どもたちの笑顔を、この国を守りたい。しかし……
「ねえ青龍。私に守れるだろうか。想像力・創造力・表現力で競い合うというこの四神大戦で。白幡虎威、朱野雀美、玄田武哉の三人の先輩を向こうに回し、守れるのだろうか」
「だから何度も言っているだろ。龍子の想像力・創造力・表現力は他の三人に負けるもんじゃないと」
「いや青龍はいつもそれを言ってくれるけど、私は三人の先輩の凄まじさをいやというほど知っているんだよ。私が三人の先輩に負けないって何か根拠があるの? 何の根拠もなければ、ただの気休めだよ」
「あるさ。根拠なら」
「! 根拠あるの? 青龍。ちゃんとした根拠なんでしょうね?」
「ちゃんとした根拠だよ。だって千年前の前回の四神大戦だって、勝ったのは青龍だぜ。まあ俺じゃなくて俺の親父だけどな」
「それは青龍のお父さんが凄いって話でしょう。私とは関係ないじゃない」