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 青龍(せいりゅう)はどうだかしらないけど、私は「参拝」なんてのは性に合わない。気軽に住めて、人々が気軽に訪ねてきてくれるところ、そんな、そんな「神殿」がいい。


「その「神殿」は格式張っておらず、こぢんまりとしている。しかし、生活に必要なものは十分過ぎるほど揃っている。その建物は堅固な要塞などではなく、数多くのその国の民が出入りし、そこの神などと笑顔で過ごす」


「ぷっ」

 青龍(せいりゅう)は吹き出した。

「こいつあ傑作だ。これが龍子(りゅうこ)の創った『神殿』か。龍子(りゅうこ)のそういうところ最高に好きだぜ」


 うぐぐぐぐ。くそう、青龍(せいりゅう)めえ。だけど、この「神殿」がやはり私にはしっくりくる。


 この異世界に転移してくる前に住んでいた家が。


「ねえねえ、(つがい)様。これが『神殿』なの?」

「入ってみたい。入ってもいいですか? (つがい)様」

「ねえねえ、(つがい)様、入ってもいいでしょう?」


 私は笑顔で頷く。

「もちろん入っていいよ。ここはみんな気軽に入れるところなんだから」


 ◇◇◇


 呆れたことに家の中までかつて私が住んでいた家とまるっきり同じだった。


 家、いや「神殿」か。その中に入った子どもたちはあまり馴染みのない作りに、最初は顔を見合わせた。だが、好奇心の方が勝ったのだろう。すぐに家の中を歓声をあげて走り始めた。


 一方、私は考え込む。私にとって父も母も帰ってこず、唯一寄り添ってくれた祖母も、この世を去ってしまったこの家、それは心のよりどころになるものではなかったはずだ。なのにどうして私の住むところを想像したらこの家が出てきた?


 私の考え込みとは関係なくに子どもたちは寄ってくる。

「ねえねえ。(つがい)様。これで何?」


(つがい)様。この扉開けると氷の国に繋がるんだよ。寒い風が吹いてきた」

それは冷蔵庫だ。


(つがい)様。この白い奴、凄いうなり声を上げるけど、飛びかかってはこないんだ。吠えるだけでかかってはこない近所の犬と同じなんだよ」

それは多分洗濯機だね。


(つがい)様。ここは凄いね。建物の中に温泉があるんだよ。熱いお湯が出てきてるの」

うん。お風呂場だね。


 何人か戻ってこないので家、いや、「神殿」の中を探してみると、いた!


 何人もの子どもたちがテレビに釘付けになっている。流れている番組は、あ、私が小学生の頃、大好きだった「魔法のアイドル マジカルリティー」。


 真剣に見入っている子がいる。笑顔の子がいる。笑い声を上げている子がいる。いろいろだ。だが共通点はある。みんな楽しそうだ。


 その時、私の疑問は氷解した。分かったのだ。これが私の理想の家なんだと。家族が楽しく笑う家。そんな家に住みたかったんだと。


 子どもたちが話している。

「うわっ、この赤い髪の女の子、凄い飛び跳ね方したよ」

「この子、『リティー』って言うんだよね」

「かっこいいね」


 聞いていて涙が出てきた。この頃の私にはもう父も母もろくに家に来ず、祖母しか家族がいなかった。その祖母に私は言ったのだ。


「この赤い髪の女の子、『リティー』って言うんだよ。かっこいいでしょ?」


祖母は穏やかに微笑むとこう言ってくれた。

「そうだね。かっこいいね」


涙が出てきた。こんな笑顔の子どもたちの前で泣くなんて駄目だ。涙を止めなくては。でも、とめどもなく流れてくる。


「「「「「(つがい)様っ!」」」」」


 ◇◇◇


しまった。子どもたちに気づかれた。せっかくみんな笑顔でいたのに。


「どうしたの? (つがい)様」

「どこか痛いの? (つがい)様」

「哀しいことがあったの? (つがい)様」


 私は首を思い切り振り、子供たちの問いに答える。

「違うよ。みんな。私は嬉しいんだよ。みんなの笑顔が見られて嬉しいんだよ。人って嬉しくても涙が出るんだよ」

 

「え? 嬉しくても涙が出るの? (つがい)様」 

(つがい)様。嬉しいことがあったの?」

「嬉しかったの? (つがい)様」


「そうだよ。そうだよ。みんな。私は嬉しかったんだよ。嬉しくて泣いているんだよ」


「なんか分からないけど、(つがい)様が嬉しかったんならよかった」


「ありがとう。みんな。そうだ。今日は私といろいろ話そう。私はみんなのことを知りたいんだ。そして、この国をもっともっといい国にしたいんだ」


「うーん。この国のことって、僕たちはまだ子どもだからよく分からないけど、僕たちも(つがい)様のことを知りたいな」


「うんうん。そうだよ。たくさん話そう。私のこともたくさん話してあげるよ」


 ◇◇◇


「それじゃあ、(つがい)様はここへくる前は『ジョシコーセー』だったの?」


「そうそう。『花の女子高生』だったんだから」


「『花のジョシコーセー』? (つがい)様はここへくる前は植物だったの?」


 そういうピントがずれた会話もあったが、何と言っても子どもたちが熱く語ってくれたのは将来何になりたいかだ。


「僕はお父さんのような腕のいい大工になりたいんだ」


「そうかあ。いい夢だね。お父さんに大工の仕事について教えてもらったりするの?」


「うん。今は簡単なことしかできないけど教えてもらっているよ。大工の仕事は楽しい」


「うん。きっと君はお父さんみたいに腕のいい大工さんになれるよ。でも大工の技だけではなくて、ちゃんと学校で他の勉強もしなくちゃね」


「学校? 他の勉強?」


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