5(第一章完結)
「おい、いい加減に気づけ。龍子。それは『幻聴』でも『幻視』でもねえ。本当に起こっていることなんだよ」
「なっ」
そんな青龍の言葉に私は思わず振り向く。
「どういうこと?」
「千年に一度の四神大戦がこれから始まるんだよ」
「へ? 千年に一度? 四神大戦?」
「ああ、千年に一度な、四神がそれぞれの番を見つけた時に始まるんだ。勝った神は向こう千年の間、他の三神を従えることができるんだ」
私は思わず下を向き、首を振る。
「何それ? ぜんっぜん聞いてないっ! それに私は青龍の番じゃないっ!」
「うーん」
青龍は目を閉じて、右手の親指と人差し指であごをはさむ。
「俺としては龍子の気持ちが固まるまで無理は言わねえ。俺は紳士だからな。だけどまあもう他は龍子は俺の番って認識しちゃってるみたいだぜ。でなきゃ四神大戦自体が始まらないからな」
私の脳内の血液はドバドバドバと逆流を始めた。
「私の気持ちを尊重すると言いながら、他は私が青龍の番って認識してるうっ? 何なのっ? その露骨な外堀の埋め方はっ?」
「うーん。そう言われてもなあ」
青龍は相変わらず目を閉じて、右手の親指と人差し指であごをはさんだままだ。
「それにな番に選ばれる条件って厳しいんだぞ。想像力と創造力が優れてなければいけない。それに表現力もな。他の三人の番もそれが抜群に優れているってことで選ばれたんだぞ。そして、龍子。おまえは」
「!」
「龍子。おまえは想像力と創造力、それに表現力も他の三人に勝るとも劣らないところがある。おまえ自身も心の底ではそう思っているんじゃないのか?」
「!」
くそっ! くそっ! 青龍め。神とは言いながら、私とそう変わらない年格好にしか見えないくせにっ! 何でそう何でも見透かしているんだっ! くそっ!
「ほれっ、他の三神はもう転移への準備始めているぜ」
そんな青龍の言葉に周りを見回せば、白虎は既に四つ足のホワイトタイガーの姿になっているし、朱雀は火を帯びた鳳に、玄武は蛇神を身にまとった霊亀の姿になっている。
「さあて、じゃあ俺も本体に戻るか」
青龍はまるで男子高校生が家に帰ったから部屋着に着替えるかと言ったみたいな口ぶりで変身を始めた。
「ほう」
私は思わず見とれてしまった。何て綺麗な水色をした龍なんだろう。
って、いかんいかん。ほだされてはいかーん。
「おーい、龍子。どうすんだ? 他の三人の番はもうそれぞれの神に乗っているぞ」
私はまた周囲を見回す。すると、白虎には白幡先輩が、朱雀には朱野先輩が、玄武には玄田先輩がそれぞれ満面の笑みを浮かべて乗っている。
しかも番に選ばれた誇りに満ち、自信満々の様子。どなたもこなたもこれから始まる四神大戦。負ける気がしないのだろう。
「さあどうする? 龍子? おまえ、番のことはともかく、想像力と創造力、それに表現力で他の三人に負けたくないんじゃないのか?」
「!」
ああ分かったよ。乗ってやろうじゃないか、この勝負っ!
「青龍。私をあんたに乗せて。間違っても落とすんじゃないよ」
それを聞いた青龍。大満足の笑顔。
「おうっ! 落とすもんかね。俺は四神の中で一番の紳士なんだぜっ!」
次の瞬間、私の周りに柔らかい風が吹き、私の身体は青龍の背に運ばれた。
全身が水色なので冷たいかなと思った青龍の背はほのかに温かい。
「ようし行くぞっ!」
青龍のその声と共に空間の歪みは大きくなり、四神と私を含む四人の番とやらは異空間に吸い込まれていった。
これからどうなるのか。不安がないと言ったら嘘になる。だけどもうその時の私には不安よりわくわく感の方が大きかったんだ。
「第二章建国」は近日中に投稿します。