46(最終章完結)
次の春、三人の先輩方は四神高校を卒業。二年後、私も卒業した。だけど、私たち四人の絆は途切れることはなかった。
作家として一番大成したのは白幡先輩だった。本屋大賞をとりまくり、書籍化はもちろんコミカライズ、アニメ化、実写化、映画化でいくつものヒットを飛ばした。
当然たくさんの出版社が白幡先輩に原稿を依頼に来たが、「何とか全部応えてあげたいのだけどねえ。やっぱり体力的に厳しいのよ。青滝さ~ん」という愚痴を私は何度も聞いた。
武哉先輩は何と大学教授になった。もちろん専門は文学。穏やかな笑顔と優しい口ぶりでの厳しい批評は一部で恐れられたが、玄田教授の推し作品に外れなしと評判だ。もちろん自分での創作も忘れていなかった。
一番元気だった雀美先輩は図書館司書になり、「日本一アクティブな図書館司書」と呼ばれた。何しろただ「本を読め」と言うばかりでなく、子どもたちと野外で泥んこになって遊んだ上で「本を読め」と言うのだ。もう大人気で何度もメディアで紹介された。そして、自分での創作も忘れなかった。
三人の先輩たちは生涯独身を通した。これほどの人たちだから何度も男性からアプローチされたが、みんな「彼氏がいるから」と言って微笑むばかりだった。一部のメディアは彼氏が何者かリサーチしたし、私のところにも取材が来た。私も微笑んで「いますよお。間違いなく。その辺の男性が束になっても敵わない凄い彼氏がね。え? 誰かって? ふふふ。さあ、誰でしょう」と言うだけだった。
そして、私だ。ふふん。聞いて驚け。何と編集者になったのだ。どやぁ。何人もの作家を世に送ったのだよ。但し、私の担当作家のうち、一番人気はぶっちぎりで白幡先輩で、しかもどんなに多忙でも私の依頼だけは断らないんだから、これはもう神界に帰っても、頭が上がらないよ。
◇◇◇
時は瞬く間に過ぎていった。そして、最初に神界に帰ることになったのは、雀美先輩だった
。
臨終の前に駆けつけた白幡先輩、武哉先輩、私の前で言った言葉は「悪いね。先に行って楽しんでいるよ」だった。
メディアは「日本一アクティブな図書館司書は笑顔で旅立った」と報じて、薫陶を受けたたくさんの人たちは涙した。
その記事を見て武哉先輩は呟いた。「これ絶対朱雀様に再会できるのが嬉しくて笑っているんだよね」。
白幡先輩と私は頷いた。
次に神界に帰ることになったのは、白幡先輩だった。
この時は大変な騒ぎになった。もう白幡虎威と言えば、小説を全く読まない人でも「名前は聞いたことあるよ。女流作家だろう」というくらいの知名度があった。
メディアは大騒ぎになり、武哉先輩は各社に請われて追悼文を書いた。
そしてこの時の報道はこうだった。「世界的に著名な偉大なる女流作家笑顔で逝く」。
これも言うまでもない。白虎と再会出来る嬉しさからの笑みだった。
世界中の人たちはそんな裏事情は知る由もなく。武哉先輩と私だけが頷き合った。
三番目も私ではなく武哉先輩だった。武哉先輩も白幡先輩ほどではないけれど結構な著名人だからメディアは大騒ぎになった。
この時も私は神界に帰る前の武哉先輩に会った。
「雀美ちゃんと虎威ちゃんには遅れをとったけど、ようやく武哉先輩も神界に帰れそうだよ」
「そうですか。私が最後ですか」
私は何とも言えない複雑な気持ちでそう答えた。
「そればかりじゃないね。武哉先輩の見立てでは龍子ちゃんはあと十年はこっちの世界にいることになるね」
「見立てってこの世界でいえば見立てられるの武哉先輩の方でしょう」
「うふふ。知らないの? 武哉先輩の見立ては当たるの」
「それは知っていますが。私と武哉先輩、二歳差ですよ。なのに十年もこっちに余分にいるんですか?」
「四神大戦の勝者の責務だよ」
「!」
「四神大戦の時も龍子ちゃんは最後まで私たちが創り上げた世界に残って、とてもよい世界にしてくれた。今回も最後の総仕上げをお願いしたいんだ」
「はあ」
「ふふ、お願いね。龍子ちゃん」
その笑顔の可愛らしさは高校の時と全くと言っていいほど変わらなかった。
◇◇◇
武哉先輩を送ってから、私は小説の執筆を始めた。
白幡先輩は専業作家だったし、雀美先輩も武哉先輩も本業は別にあったけど、いくつも小説を書いていった。
でも、私は書かなかった。自分は編集者だからマネジメントに徹しようと思っていたから。
だけど、ここで私は編集者になってから自分にかけていた枷を外した。久々に小説を書くのはやっぱり楽しい。
タイトルは「青龍の番に選ばれた文学少女は異世界で羽ばたく」。四人の文学少女がそれぞれ四神の番になり、国を創っていく物語。
発表されたこの作品はほんのちょびっとだけヒットした。そして読んだ人はこう言ってくれた。「変わったタイプのハイファンタジーですね」。
「これって『実話』でしょう?」と問う人は誰もいなかった。もちろんこちらもそのつもりで書いたのだから、全く問題はない。
◇◇◇
そして、遂に私も神界に帰る時が近づいたようだ。武哉先輩のお見立ては大当たりで、先輩を送ってから十年が過ぎていた。
もはや四神高校文芸部のメンバーは誰もいなくなってしまったけど、多くの人が私がこの世から去ることを惜しんでくれた。
でも私は笑顔だった。やっとやっと青龍に再会できるから。
そして、私の時も「名物編集者、笑顔で逝く」と小さく報じられたらしい。
◇◇◇
気が付いたら神界にいた。二回目だからすぐ分かった。
「わーっ」と言う声と共に三先輩が迎えてくれた。女子高生の姿で!
「ちょっと先輩方、その姿は?」
「何言ってんのよ。青滝さん」
白幡先輩がその言葉と共に手鏡を貸してくれる。
「これで自分の姿を見てみなさいな」
手鏡で見た己が姿は「OH、女子高生!」
「ふふふ。四神高校文芸部、再結成だね」
やはり可愛らしい笑顔の武哉先輩。
「さあて、じゃあやるかね」
「そうだね」
「そうね」
雀美先輩の言葉に同意するお二人。ほへ? 何が始まるの?
「そうれっ!」
雀美先輩のかけ声と共に私は担ぎ上げられた。
「ちょっと先輩方、危ないですよ」
「だーいじょうぶ。龍子ちゃん。今の私たちは霊体。霊体は軽いんだから」
え? 霊体? どう見ても今の私は普通の人間の体なんですが。
「わーっしょいっ! わーっしょいっ!」
三先輩に運ばれる私。その先に待っていたのは……
「四神大戦の勝者青龍様。あなたの番を連れてきました」
わっ、青龍。
「うむ。ありがとう。さて」
青龍は三先輩に手渡され、そのままお姫様だっこ。わあっ。
「お待たせしました青龍様」
「存分に二人の世界へ」
「青滝さん。頑張ってねー」
頑張るって、何をどう頑張るんですか?
「全く四神大戦の時といい、今回といい、待たせやがって。もう遠慮しないからなっ!」
「ちょっ、青龍、どこへ連れて行くの?」
「王宮だ」
「王宮?」
そこには私の家そっくりの王宮があった。
「青龍の番に選ばれた文学少女は異世界ではばたく」 完
読んでいただきありがとうございました。
四人の文学少女たちの不思議な物語はここでいったん幕引きとなります。
但し、書いた私からしてもこの少女たちはとても魅力的なので別の物語も書いてみたい気がしています。