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「今の話、先輩方、みなさんご存じだったんですよね。何で私にだけ教えてくれなかったんですか?」
「ほっほっほっ、それはねえ」
「青滝さんには四神大戦でしてやられたから、まあちょっとしたお返しよ」
「そうそう、半分も返せちゃいないよ。それにね」
「それに?」
「本来、このことは神から番に伝えられるものなの。龍子ちゃん、ギリギリまで青龍様の番になること拒みつづけていたでしょ? だから伝わらなかったんじゃないの?」
「うっ!」
確かにそれは事実ですとしか言いようがない。くそう。さすがは「鬼の住処」四神高校文芸部、ツッコミもきついぜ。
「じゃあしょうがないよねー」
「ねー」
「ねー」
くっ、くう。
◇◇◇
「まあとにかく」
ポンポンと私の頭を軽く叩く青龍。
「いったん離ればなれにはなるが、再会すれば九百年は一緒にいられる。そういうことで番でいてくれや」
「もちろんだよ」
私は胸を張る。もうつまらない意地を張るつもりはない。自分に正直に生きる。
「そうか。やっと青龍の番になってくれたか」
ホッとした表情の青龍。すまん。意地を張り続けて悪かったって、おっ?
青龍は私を抱き寄せる。おっ? おっ?
「全く待たせやがって」
そう言うと青龍は私に熱い口づけをしてくれた。
「「「おおーっ」」」
背後でどよめきが起こった。
「知らなかったー。青龍様って案外肉食系なのね」
「紳士と見せかけて、いや実際紳士は紳士なんだけど、合意が得られたら、徹底的に行くタイプなんだな」
「まあ情熱的に愛するのは他の三神も変わらないけどね」
しかしその時の私はそんな背後の声に対応する余裕はなかった。
◇◇◇
青龍の背に乗り、私は元の世界に帰って行く。先輩たちもそれぞれの神に乗っていく。
「しばしのお別れはつらいけど、楽しかったな。四神大戦。創り出した国の人ともう会えないのは寂しいけど、世界が残ってくれたのも良かった」
「そうか。そうだな」
そして、最後に私はかねてより疑問に思っていたことを青龍にぶつける。
「結局、四神大戦って何だったの? 負けた方は勝った方の下風に立たなきゃならなくなるとか言っていたけど、青龍に対する他の三神の接し方って変わらないよね?」
「あっ、ああ」
青龍は少し言い淀むが話してくれた。
「まあもう言ってもいいだろうな。一応人類の確実な存続のために多種多様な世界を千年に一度創り出しておくという大義名分もある。しかし本当のところは……」
「本当のところは?」
「俺たち四神の番探しと絆を作り出す方が優先しているわな」
「何それ」
私は何とも言えない気持ちになった。
「つまり四神大戦って、神様たちの婚活ってこと?」
「まっ、そういう側面もあるな。嫌になったか?」
「そんなことはないけどさー」
私は青龍の背に頬を擦り付けた。
「でも不思議なのは何でみんなうちの学校の文芸部員を番にしたの? まさか四神高校って名前だったからとか言わないよね?」
「いや因果関係が逆なんだ。昔から何故か龍子のいた地区は番に相応しい女性を輩出するんだ。全部でもないけどな。だから『四神』て地名が残っているんじゃないかな」
「ふーん」
分かったような分からないような。
◇◇◇
「何だか眠くなってきた」
「おう寝ろ寝ろ」
「いや時間が惜しい。一分一秒でも長く青龍と話したい……ふあ~」
それから後の記憶がない。気がついたら自宅の布団で寝ていた。本当の自宅だ。異世界の青龍の国にあった王宮ではない。
まさか。今までのことは全て一炊の夢だったのか?
そんな私の懸念はすぐに消えた。スマホの着信音がしたのだ。
見ると武哉先輩からだった。
「みんなおはよう。早速だけど『第12回エレクトリックボードノベル大賞』開催の告知が来ているよ。見てみてね。文芸部員全員の投稿が出揃ったら、また読み合わせ会しましょうね。みんな頑張ろうっ! 賞取って、神界で待ってくれている神様たちに自慢してやろうよ」
良かった。本当のことだったんだ。それにしても武哉先輩パワフルだなあ。見習わないと。
◇◇◇
それからも「鬼の住処」、四神高校文芸部の活動は凄まじくも楽しいものだった。
ただでさえ楽しかったけど、四神の思い出をみんなで話すのもとても楽しかった。
「第12回エレクトリックボードノベル大賞」については白幡先輩が大賞、雀美先輩と武哉先輩が入選、私が佳作で、全員が書籍化されるという驚異的な結果が出た。
それを見た他校の友だちは呆れかえったように言うのだった。
「やっぱり龍子のところは『鬼の住処』だねえ」