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天上にたどり着いた時には私の涙も乾いていた。
真っ白な床がどこまでも広がる天上に青龍は着陸。私がその背から降りたことを確認してから、人の姿に戻った。
それと同時に聞こえる拍手の音。拍手してくれているのは朱野雀美、白幡虎威、そして、玄田武哉の三先輩。
その後ろで微笑を浮かべているのが朱雀、白虎、玄武の三神。
私は「ありがとうございます」と言って、頭を下げ、三先輩の方にゆっくりと歩み寄っていく。
すると三先輩も駆け寄ってくれる。
「四神大戦優勝おめでとう。龍子」
「今回は青滝さんにやられちゃいましたわ」
「でもね。私たちが創り出した民を龍子ちゃんが大事にしてくれたから良かった。みんな笑顔になったものね。ありがとう。龍子ちゃん」
先輩方、そんなこと言われたらせっかく引っ込んだ涙がまた出てきちゃうじゃないですか。でも良かった。最後まで頑張って良かった。
◇◇◇
「それじゃあ最終確認だが、今回の四神大戦で創り出された世界はこのまま残すということでいいんだな?」
後方では青龍が他の三神に問いかけている。
答えてくれたのは玄武だ。
「ああ、玄武は念のため、過去の四神大戦で創り出された世界の記録を全部再確認したが、どれと比べても素晴らしい世界だ。残しておくべきだと思う」
「異議はない」
「朱雀もだ」
良かった。大丈夫だろうとは思っていたけど、そう言ってもらえるとほっとする。寂しいけど、もう創り上げた国の民は自分の力で歩いていけるだろう。もう応援することしかできないけど、頑張って。
「ようしじゃあ、龍子も来たことだし、帰るかあっ!」
◇◇◇
「へっ? 雀美先輩。帰るってどこに?」
「帰るのよ。私たちが元いた世界へ」
「いやだって白幡先輩、私たちはここに異世界転移してきたんじゃ? もうずっとここにいるのでは?」
「龍子ちゃん。ここは神界。そして私たちは人間。長くいていいところではないし、長くはいられない。体にも悪影響があるの」
「ということは青龍たちが人間界に来るってことですか?」
私の問いに目を閉じて首を振る武哉先輩。
「龍子ちゃん。残念だけどそれも難しい。神にとって四神大戦は一番と言っていいほど大事な行事だから無理もしたけど、神も人間界に長くいると悪影響があるの」
「そっ、そんな話聞いていませんっ!」
◇◇◇
思わず声を張り上げる私。自分でもハッとなり、声を潜めて再度問う。
「あのう、あのうですよ。仮にずっと一緒にいられないにしても、お互いに行き来するとか、週末には会えるとかアリですよね」
自分でも混乱していることは重々承知だ。でも言わずにはいられない。
しかし、無情にまたも目を閉じたまま首を振る武哉先輩。
「龍子ちゃん。気持ちは分かるけど無理なのよ。私たちが人間である以上、これ以上、一緒にいられないの」
私はついにキレた。
「それでいいんですかっ? 先輩たちはっ?」
◇◇◇
私の言葉にお互いに顔を見合わせる三人の先輩たち。でも、溢れだした私の言葉は止まらない。
「番とか言われて、異世界に連れて来られて、四神大戦で懸命に戦って、それが終わったら、はい、さようならって、そんなん酷いじゃないですかっ!」
「「「……」」」
「神と番は深い絆で結ばれているんじゃなかったんですかっ? なのにこのまま私たちだけ元の世界に帰るなんて、私には出来ませんっ!」
「「「……」」」
「もういいですっ! 先輩たちだけ元の世界に帰ってくださいっ! 私はここに残りますっ!」
そう言いながら私は青龍に抱きついた。青龍は当惑顔だけど、かまうもんか。
「私はここから離れませんからねっ! 体にどんな悪影響があろうが知ったこっちゃありませんっ! 私はもうここで死にますっ!」
◇◇◇
「はあ」
深い溜息を吐いたのは雀美先輩だった。
「龍子って案外情熱的だったんだね。てっきり四人の中では一番冷めているかと思っていた」
「これはこれで次回作の素材にもなりそうね」
目を閉じて腕を組んでいる白幡先輩。
「でもさすがにもう可哀想だから、そろそろ種明かししましょうか」
一歩前に出る武哉先輩。
「種明かし?」
私は泣きっ面で武哉先輩に問い返す。
「龍子ちゃん。さっき武哉が私たちが人間である以上、一緒にいられないって言ったの覚えている?」
「はあ、そう言っていましたね」
「逆に言うと人間でなくなれば一緒にいられるのよ」
「はい?」
「四神の寿命は千年。それに比べると人間は百年がいいとこ。天寿を全うすれば人間ではなくなり霊体になる。そうなれば神界で生きていくことに何の支障もなくなるの」
「うふふ。そういうことね」
笑顔の白幡先輩も前に出てくる。
「先代の四神の番は紫式部、清少納言、藤原道綱母、菅原孝標女だったのは聞いている? あの人たちもみんな天寿を全うしてから神界に来て、今の四神を産んで、先代の四神と一緒に第二の天寿を全うしたの」
「でっ、でも、紫式部、清少納言、藤原道綱母、菅原孝標女は人間界で結婚したんじゃあ?」
「平安時代に女性が未婚で通すのは厳しかったからね。先代の四神はそれを認めていたし、今の四神も認めているよ」
「私はっ!」
私はグイと青龍を引き寄せた。
「私は青龍以外とは結婚しませんからね。先に青龍の方が番になれって言ってきたんだから、ところで先輩方」
「「「はいっ?」」」